重要なお知らせ
更新日:2011年1月28日
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森林には、多種多様の生物の生息地としての重要な役割があります
日本に生息している生物の種類数は、微生物類も含め、わっているだけで約90,000種です。
しかし、それは実際の生物種数のうち、ほんのわずかに過ぎないと考えられています。
少なくとも、その3倍の30万種はいると推定され、実際のところは生物種数の桁数さえもわからないと言われています。
哺乳類や鳥類・両生類・爬虫類・魚類など、ある程度、高等な生物については、かなりの種類が把握されているでしょう。
現在、種に名前が付けられている生物のうち、もっとも多い数を占めているのは昆虫類で、全生物種の約3割を占めています。
昆虫類や、それに近い節足動物の仲間では、毎年のように数種の新種が発見され続けています。
一方、人間の腸内に共生している細菌の種類は100種とも300種とも言われています。
様々な高等生物のほとんどは、食物のことは除外したとしても、その種だけでは生きてはいけません。
腸内細菌のように、共生している生物があって、初めて生存できています。
自然界の中で、細菌や原生生物などの微生物の存在は、大きな役割を担っており、種の分類が難しいため種数の把握は困難ですが、
自然界に生息する生物種数において、概念的には重視するべきでしょう。
中・高等生物それぞれに、体内や体外で共生している独特の細菌や原生生物がいるとすれば、その種類数は膨大なものとなります。
さて、そんな未知数の日本の生物のうち、多くの部分が森林に生息しています。
世界の生物種の約7割が森林に依存して生息しているという説がありますが、仮にそれを日本に当てはめるとすれば、
日本の森林には、膨大な種類の生物が生息していることになるでしょう。
既に知られている約9万種の生物のうち、その7割が森林に生息していると仮定すると、 日本の森林は約6万3千種の生物をはぐくんでいる計算となります。
宮城県のある団体が、海で養殖しているカキやホタテなどの貝類やノリやワカメなどの海藻類がよく育つために、
海に注ぐ川の上流で森林の整備を行う運動を展開し、全国に知られるようになりました。
森林は、森林に生息する生命だけをはぐくんでいるわけではありません。
様々な養分やミネラルを川などにも提供し、川は海まで養分を運び、川や海の生物の生息も支えています。
近年、環境問題全般に「エコ」という言葉が使用されていますが、「エコ」とは生態学を意味する「ecology」という言葉の頭文字です。
生態学というのは、生物の生活(生態)についての学問ですが、そこから転じて、
「人間も生態系の一員であるとの視点から、人間生活と自然との調和・共存をめざす考え方(「大辞泉(小学館)」より)が、
Ecology(エコロジー)と呼ばれるようになってきました。
では、生態系とはなんでしょう?
私たちの食料を例にして、そこからから考えてみましょう。
私たち人間は、主に農作物や家畜などを食べていますが、農作物も家畜も元は野生の生物で、
それを人間が長い時間をかけて改良してきたものです。
まず、そのスタートが自然の恵みであることは、忘れてはならないことです。
農作物は、農薬などによってそれらを食べる昆虫やネズミ類から守られていますが、たとえばネズミ類が数限りなく増えたとすれば、
どんなに農薬を使用しても農作物は食べつくされてしまうでしょう。
ネズミ類は、他の生物、たとえばタカやキツネなどに食べられることで、数限りなく増えることもなく、一定の数を保っています。
タカやキツネ類が、もしネズミ類だけを食べていたのでは、ネズミ類が減り過ぎてしまうでしょう。
その結果、タカやキツネまでも飢えてしまうので、ネズミ類のほかにも、小鳥などの他の食物が必要です。
小鳥類は昆虫を食べ、小鳥類が生存していけることと同時に昆虫の数も調整されます。
その結果、昆虫が樹木の葉を食べつくすこともなく、樹木は光合成をして酸素を供給しながら成長します。
樹木は木の実や落ち葉を落とし、他の様々な動物に栄養を与えます。
落ちた樹木の実をタヌキなどが食べ、種子は消化されないで、遠いところに運ばれ、糞とともに排泄されます。
運ばれた樹木の種子は、タヌキの糞を養分にして芽を出し、育ちます。
たとえば、川沿いに運ばれ育った樹木は、枝葉を水面の上にのばし、葉を食べるためについた昆虫類のいくつかを川に落とします。
川に落ちた昆虫類は魚の食料になります・・・・・・・・
と、どんどんと、そういった連鎖が続き、循環し、多種多様の生物たちがともに生きていくことが出来ています。
そして、その循環の輪の中には、わたしたち人間もいるのです。
多くの生物種とそれを取り巻く環境(水や空気、光、土など様々な物質やエネルギー)が複雑にかかわりあい、
その結果、わたしたち人間も含めた多種の生物が生息し続けていける体系を「生態系」と呼びます。
健全な生態系により多種多様の生物が存在し続けていられます。
ところで、どうして生物はこのように多くの種類に分かれて増えていったのでしょうか?
多種多様の生物種の中には、姿や生活の仕方がまったく異なるものから、人間が分類するのに困るほどよく似ているものもあります。
しかし、どれひとつとして、全く同じものはありません。よく似ているものでも、少しずつ、何かが違っています。
温度や湿度、光や空気の成分、水、栄養などの様々な外環境の違いに対して、
多種の生物の反応のしかたは、生物の種の数だけ、地域的変異を考慮するとそれ以上の数の異なりがあると言えるでしょう。
外環境の様々な要素のいずれかが変化すると、生存できなくなる種が出てきます。
外環境の変化の度合いだけ、また変化する外環境の要素の数だけ、生存できなくなる種が増えていきます。
逆に、外環境が大きく変化しても、その変化に向いた生物種は生存し続けます。
どのように外環境が変動しても、それが壊滅的な変化でなければ、多種多様な生物の中のいくつかは生存していけるように、
生物は多様化してきたのです。
生物の多様性は、わたしたち人間の生活にどのような関係があるのでしょうか?
その意味としては、大きく3つあげられます。
健全な生態系の輪の中に、わたしたち人間も含まれます。
多様な生物、それをとりまく環境の複雑な相互作用の働きによって、わたしたち人間の生活基盤ができあがっています。
バランスがとれた生態系の中で人間が受ける恩恵を、生態系サービスと呼びます。
生態系の例にあげたように、安定して農産物が生産できるのも生態系サービスによるです。
森林の存在自体も、バランスがとれた生態系によって成り立っていますので、森林が持つ公益的機能もまた、大きな生態系サービスです。
生物の多様性を守ることは、健全な生態系を守ることにつながり、わたしたちの暮らしを守ることになるのです。
わたしたち人間は、様々な生物を資源として活用してきました。
食糧や衣類の材料はもちろん、医薬も野生生物から得てきました。
近代前までは、医薬のほとんどすべてが、野生動植物の一部をそのまま使用したり、野生動植物を材料として作られたものでした。
現代でも、漢方薬はそのような薬です。
化学の進歩により、医薬の大半は化学物質を合成してつくられるようになりましたが、医療的に効果がある化学物質の発見の多くは、
野生動植物に含まれる成分が元になっています。
現代までに、人間が資源として活用できたのは、多種の生物のうちのほんの一部に過ぎません。
自然界に存在している成分や、その働きのうち、人間が知り得ているものは、きわめてわずかであると言えるでしょう。
将来的に、医薬だけでなく、新エネルギーの開発や、化学合成物質の分解、物をつくるための素材などに有用な新しい成分が発見される可能性は、
限りないほどあるのです。
生物多様性は、人類にとって、まさに、無数の文明の卵であると言えるでしょう。
人間は、様々な生物を活用して、食糧や衣類、住居などを得てきました。
稲作や麦作の農耕が始まったのは、およそ1万2千年前(日本では、およそ6000年前)だと言われています。
ウシは、約8000年前に野生のウシ科の動物を飼いならしはじめましたが、現代のような品種に改良されたのは約200年前だと言われています。
ブタは、約9000年前にイノシシを家畜化し改良されてきたものと言われています。
ニワトリは、約5000年前に東南アジアなどに生息しているセキショクヤケイという野鳥を家畜化したものと言われています。
衣類などを作るための自然素材、綿花の栽培やカイコの養殖などにも、深い歴史があります。
古代から栽培や飼育が始められ、長い年代にわたって改良を重ねながら活用されてきた作物や家畜ですが、
将来も、その存在が永続的に続いて行くのか、その保証は何もありません。
生物である以上、生息できる環境には限界があります。
未来の気候が、どのように、どの程度変動するのかは予測できませんし、作物や家畜類を滅ぼすような疫病などが発生する可能性もあります。
現存する作物や家畜などが消滅したときに、わたしたち人類の命をつないでいくものは、気候変動などに順応して残った生物種です。
将来、どのような気候変動が起こるか予測できないように、どのような生物種が残存していくかもわかりません。
そのような事態の想定が否定されない以上、多種多様の生物の存在:「生物多様性」は、
人類が世代を重ねて、持続的に生息していくための、「命綱」のようなものでもあるのです。
以上のように、生物多様性は、わたしたち人間が世代を超えて持続的に生存していくために大切なものです。
そして、森林は、森林を中心とした生態系の中で、生物多様性を維持してくれる働きをしてくれています。
生物多様性を守っているのは、森林だけではありません。
湿原や河川、湖沼、海洋・・など、様々な生物の生息環境の単位があります。
この単位のことを「ビオトープ」と呼びます。
(※一般に、人工的に再生した生物の生息環境のことを「ビオトープ」と呼んでいますが、それは本来の「ビオトープ」が意味するものの一部です)
森林というビオトープも、その性質(樹木の種類や年齢、地形など)によって、いくつかのビオトープに分けることができます。
様々なビオトープが生物多様性を維持していけるように、わたしたちが保全や管理、また創出などを行っていくことは、非常に重要なことです。
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