障害の有無にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える「共生社会」の実現を目指して、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの推進に向けた特別支援教育の充実が求められています。 インクルーシブ教育システムとは? ○「インクルーシブ教育システム」とは、障害のある児童生徒が、その年齢及び能力に応じ、可能な限り障害のない児童生徒と共に、その特性を踏まえた十分な教育を受けることのできる仕組みのことです。その中で、個人の要求に基づく「合理的配慮」の提供が必要とされています。 本質的視点 ○障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が、同じ場で共に学ぶことを目指す場合には、それぞれの児童生徒が、授業内容を理解し、学習活動に参加している実感や達成感を持ちながら、充実した時間を過ごすことができ、持てる力を高め、生きる力を身に付けていくことが、最も本質的な視点です。 合理的配慮とは? ○「合理的配慮」とは、障害のある児童生徒が、他の児童生徒と同様、公平に教育の機会に参加することを目的として、学校の設置者及び学校が社会的障壁を除去するために行う「必要かつ合理的な取組」のことです。  ・障害の特性や具体的場面・状況に応じて「個別」に必要となるもの  ・体制面や財政面において「過重な負担」を課さないもの 法的義務 ○障害者差別解消法の施行(平成28年4月)により、国公立の学校においては、「合理的配慮の提供」が法的義務となります。 ○「合理的配慮」は、本人・保護者からの意思の表明に基づくものですが、意思の表明がない場合でも適切な対応に努めることが大切です。 ○各学校においては、従前から行ってきた様々な配慮の内容について、「合理的配慮」の観点から整理を行い、実施することが必要となります。 ○社会的障壁:障害のある人にとって、日常生活や社会生活を送る上で、障壁となるようなもの       (建物の段差、障害のある人に対する偏見など) 合理的配慮の決定・提供までのプロセス 1 意思の表明 2 障害の状態等の把握 3 基礎的環境整備の状況の確認 4 合理的配慮の検討・決定(過重な負担について判断) 5 合理的配慮の提供 Aさん 小学生(視覚障害) 1 黒板の字が見やすくなるよう、座席の配置等を配慮してほしい。 2 視力0.1(矯正後)   黒板に近づけば、通常の文字でも読むことができる。   明るすぎるとまぶしさを感じる。 3 <専門性のある指導体制の確保>   特別支援学校のセンター的機能を活用し、指導の工夫等について助言を受けている。 <施設・設備の整備>   通常のカーテンではまぶしさを軽減することが難しい。 4 <教育内容・方法>   黒板の文字が見やすいよう、座席の位置を教室の前方にする。   まぶしさへの配慮として、廊下側に座席を配置するとともに、ブラインドを設置する。 5 個別の教育支援計画に記載し、合理的配慮の提供を行う。 Bさん 中学生(肢体不自由) 1 車いすで学校内を安全・円滑に移動できるよう、施設を整備してほしい。 2 日常生活において車いすを利用し、屋内・屋外を自力で移動することができる。   車いすの乗り降りは自力でできる。 3 <専門性のある指導体制の確保>   特別支援学校のセンター的機能を活用し、指導の工夫等について助言を受けている。   <施設・設備の整備>   校内にエレベーターや階段昇降機は設置されていない。 4 <施設・設備>   エレベーター等の設置は財政上困難である。   教室を3年間1階に固定する。   安全・円滑に移動できるよう、スロープを設置する。常設できない場所には、取り付け式のものを用意する。   <支援体制>   災害時の避難経路を確保し、担当職員を明確にする。 5 個別の教育支援計画に記載し、合理的配慮の提供を行う。 Cさん 高校生(学習障害) 1 読み書きが苦手で、書字に時間がかかるため、書く量を減らしてほしい。 2 毎時間、板書の視写が半分程度しかできていない。   各教科の課題の提出がほとんどできていない。 3 <専門性のある指導体制の確保>   特別支援教育コーディネーターが中心となり、生徒の実態に応じた学習支援の方法を検討し指導を行っている。   <教材の確保>   各教科の指導において、担当教員が書き込み式のワークシートを活用している。 4 <教育内容・方法>   書く内容を減らした書き込み式のワークシートを提供する。   デジタルカメラによる板書の撮影を許可を許可する。   <支援体制>   特別支援教育コーディネーターが、教科間で課題の量や提出する順番を調整する。 5 個別の教育支援計画に記載し、合理的配慮の提供を行う。 合理的配慮の提供に当たって ○「合理的配慮」の提供に当たっては、本人・保護者と学校の設置者及び学校が、建設的対話による相互理解を通じて合意形成を図ることが重要です。 ○検討の中で、過重な負担に当たると判断した場合は、本人・保護者にその理由を説明し、理解を得るよう努めます。その際には、本人に十分な教育を提供する視点から、代替措置の選択も含め、合意形成を図っていくことが大切です。 基礎的環境整備の観点 8項目 ○基礎的環境整備とは、「合理的配慮」の基礎となる環境整備のことです。 ○法令に基づき又は財政措置により、国・県・市町・学校がそれぞれ行います。 @ネットワークの形成・連続性のある多様な学びの場の活用 A専門性のある指導体制の確保 B個別の教育支援計画の作成等による指導 C教材の確保 D施設・設備の整備 E専門性のある教員、支援員等の人的配置 F個に応じた指導や学びの場の設定等による特別な指導 G交流及び共同学習の推進 合理的配慮の観点 3観点11項目 (1)教育内容・方法 (教育内容) @学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮 A学習内容の変更・調整 (教育方法) @情報・コミュニケーション及び教材の配慮 A学習機会や体験の確保 B心理面・健康面の配慮 (2)支援体制 @専門性のある指導体制の整備 A児童生徒、教職員、保護者、地域の理解啓発を図るための配慮 B災害時等の支援体制の整備 (3)施設・設備 @校内環境のバリアフリー化 A発達、障害の状態及び特性等に応じた指導ができる施設・設備の配慮 B災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮 合理的配慮に関連する法令等 障害者の権利に関する条約 国連採択 平成18年 日本国署名 平成19年 ○インクルーシブ教育システムの確保  ○合理的配慮の提供 教育基本法 平成18年 第4条(教育の機会均等) ○障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。 障害者基本法 平成23年 第4条(差別の禁止) ○障害者に対して、障害を理由とする差別やその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。 ○社会的障壁の除去を必要としている障害者に対して、必要かつ合理的な配慮がされなければならない。 第16条(教育) ○障害者が、その年齢や能力に応じ、特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害のある児童生徒が障害のない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、必要な施策を講じなければならない。 中央教育審議会初等中等教育分科会(報告) 平成24年 「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」 ○障害のある児童生徒が十分に教育を受けられるための合理的配慮の提供(学校の設置者・学校) ○合理的配慮の基礎となる環境の整備(国・県・市町・学校) 障害者差別解消法 平成25年 第7条(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) ○障害を理由とした不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 ○障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合、その除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 学校教育法施行令 平成25年 ○個々の児童生徒の障害の状態等を踏まえ、総合的な観点から就学先を決定する仕組みとする。 ○本人・保護者の意向を可能な限り尊重する。 教育支援資料 平成25年 ○障害のある子供の就学手続と早期からの一貫した支援の充実 障害者の権利に関する条約 日本国批准 平成26年 ○障害者の権利の実現に向けた取組の一層の強化 栃木県 教育委員会事務局 特別支援教育室 〒320−8501 宇都宮市塙田1−1−20 電話 028−623−3381  URL http://www.pref.tochigi.lg.jp   発行 平成28年2月