ローカル無タイプ/栃木県


はじめに

 現在、地球上には非常に多くの生物種が生息しています。名前が付けられ、分類上の位置がはっきりしているものだけで百数十万種と言われますが、いまだに研究もされず、学問的には未知な種がその数倍〜数十倍は存在すると考えられます。熱帯雨林の開発に伴い、我々に存在すら知られること無く消えていく多くの生物種がいるのではないかという危惧はよく知られていますが、地球上には深海とか岩石圏などほとんど調査の手が届いていない領域も多く、地球の生き物について我々が知るべきことは山ほどあると言ってよいでしょう。身近な所でさえも、小さな目立たない生き物についてはほとんど何も知られていないというのが実態ではないでしょうか。

 地球の46億年の歴史の中で、生命は地球誕生後数億年のうちに生じたと考えられます。現在、最古の化石として知られているのはおよそ35億年前のものですが、その後バクテリアのような単純な生物の時代が長く続きました。複雑な体制を持った生物の化石が現れるのは6億年ほど前の地層からです。古生代の初めには爆発的な生物の放散が起こり、現在見られるいろいろな生物の祖先型が出そろいました。古生代の中ごろには水中から陸上への生物の進出が行われ、生息域が拡大していきました。さらに、現在に至るまでの間の多くの生物の興亡が化石として記録されています。

 しかし、化石として残されているのは地球上にかつて存在した生物のごく一部に過ぎないため、どれほどの生物種が実際に存在したのかは推定の域を出ません。ある生物種の継続時間(寿命)は分類群によって大きく異なるようですが、平均して数百万年程度と考えられます。また、地質時代を通じて地球上のさまざまなニッチが現在同様に満たされていたとするなら、それこそ膨大な数の生物種が存在していたはずです。つまり、現に生息している生物種を除いて、地球上に現れた生物のほとんどは既に絶滅してしまっているのです。

 古いタイプの生物が滅び、新しいタイプの生物が進化するという過程は地球の歴史の中で繰り返し起こってきたことです。そのような生物の歴史の中で、多くの生物種が短時間のうちに一斉に姿を消してしまったように見える事件(大量絶滅)が何度もおこっています。とくによく知られているのが恐竜やアンモナイトの絶滅で代表されるような中生代末の大量絶滅です。古生代末の大量絶滅はさらに規模が大きかったとされています。

 このような大量絶滅の原因については昔から様々な議論がなされてきました。大きくは地球内部に起因する比較的ゆっくりした過程(例えば気候の寒冷化)に基づくとする内因説と、地球外部に起因する突発的な過程(例えば隕石の衝突)に基づくとする外因説に分かれますが、まだ個々の大量絶滅の過程が詳しく明らかにされている訳ではありません。

 地質時代の絶滅と較べて現代の生物の絶滅は、人類という単一の種によって引き起こされているものであること、また、急激に進行しているものであるという点で大きな違いがあります。人類が原因となったかもしれない生物絶滅としては、古くは更新世末期の大型哺乳類等の絶滅があり、当時の狩猟者による過剰殺戮の可能性が指摘されています。歴史時代の中でも狩猟や移入種の導入が原因と見られる絶滅がいくつも知られています。しかし、絶滅種の数は18世紀までは4年に1種程度、19世紀には年に1種程度だったのに対して、1975年には年に1000種、2000年ころには年に4万種ほどに上ると考えられ、絶滅のスピードは加速度的に増加しています。このことは人類による大規模な開発や大量の汚染物質の排出により地球環境自体が著しく悪化し、生態系の崩壊が起こっているためと考えられます。

 地質時代の絶滅は全体にゆっくりした過程で起こったと考えられ、たとえ激変的なものであっても回復の時間が十分に与えられていたために地球生態系にとって致命的なものにはなりませんでした。現代の生物絶滅事件も地球史的にはひとつのエピソードに過ぎず、数百万年、数千万年後の世界はやはりいろいろな生きもので満ちあふれているかもしれません。しかし、構成種は現在とはかなり変わっており、人類は影も形も見られないということになるのでしょうか。

 人類の生活にとって動物や植物資源の利用は不可欠のものですし、生存に必要な空気や水すらも植物の存在に負っていることを考えれば、生き物を絶滅から守ること、生物多様性を保全することは人類の未来を保障することと深く結びついているのです。

 生物の絶滅の問題は、一見私たちの日常生活とはかけ離れたものとして捉えられがちですが、実は大量の資源を消費し、より快適な生活を求める現代人のライフスタイルそのものに根ざしているのです。今、地球と生物を守るために、私たち一人一人が何をすべきかを考えてみる必要があるのではないでしょうか。

(栃木県野生生物保全対策専門委員会委員長  青島 睦治)