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日本再生の新原点(抜粋)

評論家  草柳 大蔵 
  • 那須野ヶ原の印象
     昨日は一日、サンサンタワーに案内されまして辺りの景観を全部見ましたが、空気の匂いが違うんですね。〈中略〉甘いというか、本当にこれが宇宙の風だったんだと実感させられます。こんな所を残しておいてくれた人に対して、千歓万謝の思いというのはこういうことであったろうと私は思いました。
     その風をとらえながら思ったのですが、ようやく日本に、突風とか強風を伴わない神風が吹き出したなと思ったのです。
     今度の首都機能移転の問題は、ただ単に首都機能云々を空間的、時間的に移動させるだけではなく、日本の文化の系を変えるひとつの新しい出発点だ、そう理解しなければ何もならないと思うのです。〈中略〉栃木県という所にこういうテーマが来たのは、非常におもしろいという感じがします。

  • 国会等の移転は「坂東武士の気概」を発揮して
     坂東武士の気概とは何ぞや。〈中略〉上に立つ人に対して、その人の持っている思想や方向性、あるいは戦力や行動、あるいは倫理、そういうものに心の底から惚れた場合は、「お前はここを耕し、馬を肥やし、人を増やし、守ってくれよ。」と言われたら、自分に与えられたその一所に命を懸けた。その姿を見ていて、俺は死んでもお前を守ってやると「安堵」する。
     この「安堵」と「一所懸命」という、人間にとっての最高のモラルを実現したのが坂東武士でありました。
     〈中略〉今日、これから私たちが取り組もうとしている、そして全国に提案しようとしている、首都を移転させる那須一帯の空間に新しく誕生する都市は、東京を安堵させる、非常に大きな意味のある所です。今は「危機管理」等の難しい言葉で言っておりますが、要するに昔の武士たちが言っていたのは「安堵」です。
     東京という情報の世界にも稀な集積都市、そして便益性の集積都市、将来の文明軸上のある都市、そういうものが一夜の地震で壊滅しない。あるいは、一夜の地震で物的損害は出るけれども、情報的に何ら損傷がない状態をつくる。あるいは情報的に損傷があっても、オルタネーティブな、すぐに代替できる情報空間が存在する。そのために非常に必要なのです。この「安堵」という字は、今度の大きな事業の中心概念です。

  • 日本の大学教育に対する危機感
     ごく最近、スイスの国際経営開発研究所が、「世界競争力ランキング」を今年2月に発表いたしました。それによりますと、2001年、世界49カ国のうち、日本の国際競争力は何位かというと、26位です。ちょうど今から10年前の1989年から1990年までは何位だったと思いますか。1位です。10年前は4年続けて1位です。ずっとトップを走っていた。それが今は26位です。
     ですが、もう少し内容的に言うと、先進国の中では最下位なんです。どうして悪いかというと、大学教育の質が悪い。
     〈中略〉内閣の合意形成、政策意図の明示、ベンチャービジネス、大学教育。殊に一番大きな問題は、大学教育の質です。〈中略〉世界の大学教育の方向と、今日、日本がやっている大学教育の方向は180度違うのです。日本の大学教育がやっているのは、組織内の管理をつくる教育です。今、全世界の大学教育の力点はどこにあるのかというと、「マネージャー・グループのリーダーをつくる」ことにあります。
     〈中略〉マネージャー・リーダーというのは、物事を正しくやるだけでは駄目なのです。
     そこのところは、スイスのネスレという大きなお菓子会社があります。そこの会社のマウハーの自叙伝を読みますと、はっきり21世紀の思想として出しています。
     「Do the right thing」と「Do the things right」という2つです。今までの大学教育は管理職をつくるためだから、正しく物事が行われているか、正しく物事をやる人間を育てているか、つまり、「Do the things right」でした。今は環境の変化が非常に早いし、情報の組み合わせ方によって違う答えがいくつも出る。だったら「正しく物事をやる」のではなく、「正しいことを見つけてやれ」なのです。間違ったことを正しくやっても結果は間違いの集積にすぎないではないか。

  • 日本が世界で通用しない理由と解決策
     日本は今なぜ憎まれているか。〈中略〉世界が必要とする人材をお宅の大学は出していませんね、教育方法を変えていませんねということです。志のある人たちが立ち上がろうとしている時に、そのための社会的なネットワークをつくっていませんね、法律も変えていませんねということです。それで苛立っているんです。国が駄目だからではないんです。愚図だから苛立っている。そこを直せばいいんです。〈中略〉
     もう一つの大きな問題は、やはり首都機能の移転と関連いたしますが、日本の再建というと皆うんざりして、がっかりして、メソメソしております。口を開けば「不良債権、不良債権」です。しかし、皆さんはもうご存じだと思いますが、今日の日本のデフレの本当の原因は、不良債権ではないのです。物の過剰なんです。
     〈中略〉不良債権に銀行が一所懸命取り組んで、引当金を積み上げて、一所懸命払っても、増える一方。なぜか。増える原因を、社会的に皆目をつぶって取り払おうとしないからです。
     〈中略〉つまり、今日の不況の解消法は、過剰設備に退去させることなのです。不良債権に取り組んでも、そんなものは夢まぼろしと格闘するようなものです。そこに問題があるんですね。

  • 少子化に対して那須地域が果たすであろう重要な役割
     〈中略〉皆さん御承知のように2007年になると大学全入みたいな状態になります。これは言い換えれば少子化社会の始まりです。2007年がピークで、それからどんどん落ちていって、2020年から2022年にかけて、日本の若年労働者は1,000万人足りなくなります。だから2020年までにどうしても1,000万人の外国人労働者を雇い入れなければならない。今までは製造業の生産性よりうんと低い賃金で雇える、そういうカテゴリーだけで人を扱い慣れてきた日本人が、そうではなくて、これだけの世界一の文明軸を発展させた日本人が、文明軸のメンテナンスを誰にやらせるかという問題を抱えています。
     〈中略〉これから先、私たち日本人が先祖から受け継いだこの素晴らしいレベルを次の世代に間違いなく渡していくためには、インストラクターの教育は非常に重要です。そのインストラクターの教育をどこでやるかといったら、ぜひ、あの那須の素晴らしいソフィスティケートされた環境でやってみたい。
     殊に、外国から呼んできた若い子供たちに、那須の環境の中で、君たちが社会をつくっていくんだということを教えていく。そして彼らが大人になって結婚して、あるいは国へ帰ったときに言ってもらいたい。「ああ、日本で教えてもらってよかったな、日本の教育はよかったんだな。」と。〈中略〉この言葉の発信地を、あの那須にしたいのです。
    そうしなければ、技術的にも、社会的にも、精神的にも日本はもたないのです。〈中略〉
     今私が提案申し上げたことのたとえ10分の1でも何かできれば、それが突破口となって、今までのような、「うまくいったんだから、それでいいはずだ。」という過去の栄光に座り込む人たちの座布団をひっくり返すことができると思う。

  • 未来の日本を創造するための期待
     最後に、一つだけ申し上げたいことがあります。ラインホールド・ニーバーという、アメリカの代表的な神学者がいます。これは、時々アメリカ人が困難に直面したときに言うのですが、「神よ、変えることのできないものを受け入れる平静さと、変えるべきものを変える勇気と、そして、それらを識別する知恵を与えたまえ。」
     すばらしい言葉だと思います。〈中略〉
     私は昨日那須を去るに当たって、私自身を含めて、本当に勇気のある人が出てきてほしいなと思いました。



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