重要なお知らせ
更新日:2011年1月28日
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【整備された人工林】
森林の整備は、森林が荒廃し、森林が持つ公益的機能が、十分に発揮されなくなった状態を改善するために、 人間の手によって森林の整備をし、公益的な機能が十分に発揮される状態を目指すものです。
森林から得られる木材を得るために、森林の管理を行う「林業」でも、社会に木材を提供していることや、
また、世界的な気候変動の要因となる温室効果ガスの一つである二酸化炭素を、
木材の利用によって長期間にわたって大気中から隔離することから、公益的機能を有してると言えます。
しかし、「林業」は基本的には経済産業活動です。
経済産業活動とは離れて、森林が持つ公益的機能の発揮を目的として実施される のが「森林整備です」
かつての時代、産業である「林業」を推進・発展させることによって、結果的に森林の公益的機能も十分に発揮されていくという考え方、
「予定調和論」が、国など行政機関の中でも主な考え方でした。
しかし、世界的な森林面積の減少・地球規模の気候変動の発生・生物多様性の重視化、などの世界的情勢の変化を踏まえて、
日本でも平成13年に「林業・森林基本法」が制定され、それまでの「林業基本法(昭和39年制定)」による木材生産を中心とした政策から、
多面的機能の発揮を加えた施策に転換されました。
このことにより、森林の施業についても、林業関係者による木材生産のための森林管理から、
多様な人々による多面的機能発揮のための森林整備が重視されるようになってきました。
【旧法】 林業基本法(昭和39年・1964年)制定
(法律の目的) 第1条 この法律は、林業及びそのにない手としての林業従事者が国民経済において果たすべき重要な使命にかんがみ、国民経済の成長発展と社会生活の進歩向上に即応して、林業の発展と林業従事者の地位の向上を図り、あわせて森林資源の確保及び国土の保全のため、林業に関する政策の目標を明らかにし、その目標の達成に資するための基本的な施策を示すことを目的とする。 (政策の目標) 第2条 国の林業に関する政策の目標は、国民経済の成長発展と社会生活の進歩向上に即応して、林業の自然的経済社会的制約による不利を補正し、林業総生産の増大を期するとともに、他産業との格差が是正されるように林業の生産性を向上することを目途として林業の安定的な発展を図り、あわせて林業従事者の所得を増大してその経済的社会的地位の向上に資することにあるものとする。 |
【新法】 森林・林業基本法(平成13年・2001年)制定
(目的) (森林の有する多面的機能の発揮) 第2条 森林については、その有する国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面にわたる機能(以下「森林の有する多面的機能」という。)が持続的に発揮されることが国民生活及び国民経済の安定に欠くことのできないものであることにかんがみ、将来にわたって、その適正な整備及び保全が図られなければならない。 (略) (林業の持続的かつ健全な発展) 第3条 林業については、森林の有する多面的機能の発揮に重要な役割を果たしていることにかんがみ、林業の担い手が確保されるとともに、その生産性の向上が促進され、望ましい林業構造が確立されることにより、その持続的かつ健全な発展が図られなければならない。 2 林業の持続的かつ健全な発展に当たつては、林産物の適切な供給及び利用の確保が重要であることにかんがみ、高度化し、かつ、多様化する国民の需要に即して林産物が供給されるとともに、森林及び林業に関する国民の理解を深めつつ、林産物の利用の促進が図られなければならない。
第1条 この法律は、森林及び林業に関する施策について、基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、森林及び林業に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする |
人工針葉樹林とは、木材の生産ために人が植えた、スギやヒノキによって成り立っている森林です。
県西環境森林事務所の管内にある森林面積のうち、人工針葉樹林の面積の率は42%と半分以下となってます。
しかし、それは、広大な日光国立公園 にある天然林が含まれているためで、一般的な森林の姿をあらわしているとは言えません。
市町村別で見ると、日光市では人工針葉樹林の割合が33%ですが、鹿沼市では76%、西方町では52%と多くの面積を占めています。
森林面積から国有林を除いた民有林だけでみると、3市町での人工針葉樹林は62%と、広い割合を占めています。
(※ データは、平成18から20年のものを使用しています)
今ある人工針葉樹林のスギやヒノキは、いつごろ植えられたのでしょうか?
人工林の年齢(木々が植えられてからの年数)は、だいたいが記録として残っています。
グラフを見ると、約50年ほど前に多くの針葉樹が植えられたことがわかります。
では、約50年前とは、どのような時代だったのでしょうか?
東京タワーが建ち、家庭にテレビや冷蔵庫などが普及しはじめ、まさに高度経済成長期の始まりの時代でした。
戦後の復興から高度経済成長期にかけて、日本の人口は大きく増加しました。
住宅を建てるための木材の需要は非常に多く、供給が追い付かないい時代でした。
木材は、当時、相当な高値で取引されたようです。
当時の人々には、経済成長が果てしなく続いてゆくように思えたのでしょう。
山に木々を植え、それを育てれば、子孫にまで裕福な暮らしが約束されるように思えたのかもしれません。
その様子は、前出の「林業基本法」の文面にも滲み出ているのではないでしょうか?
このような時代背景のもと、官民をあげて、山の広葉樹を切り倒して針葉樹を植える、「一斉拡大造林」というものが、大々的に行われました。
1986年(昭和61年)、GATT(ガット:関税および貿易に関する一般協定)の加盟国による会議が、南米のウルグアイで開かれ、
その会議で開始が宣言された貿易交渉が、「ウルグアイ・ラウンド」というものでした。
1994年(平成6年)にウルグアイ・ラウンドは調印され、翌年には締結されました。
GATTはWTO(世界貿易機関)と変わり、その頃から木材の貿易自由化交渉が始まり、外国産の木材がどんどんと安値で輸入されるようになってきました。
しかし、木材の自給率(日本の森林で生産された木材の割合)が減り始めたのは、もっと以前からのことでした。
一斉拡大造林が始まった昭和30年代では、木材の自給率は70から90%と多かったのですが、
昭和45年(1970年)には自給率が50%を下回ってしまったのです。(林野庁「木材需給表」より)
前述したように、昭和40年代は、高度経済成長期の時代で、木材の需要がたいへん増加しました。
それに対して、日本の木材は不足し、一斉拡大造林した木はまだ伐採できるまでには成長しておらず、
木材の必要量は輸入せざるを得なかったのです。
そして、皮肉なことに、一斉拡大造林で植えられた木々が伐採できるにまで成長したころ、
ウルグアイ・ラウンドなどにより実質的に貿易が自由化された輸入材が安値で市場を出回っており、
合理的な流通システムが未整備でコストがかかる日本の木材が太刀打ちできない状況になっていたのです。
現在の国産木材の自給率は、約20%で推移しています。
(※県では、国産材の低コストでの安定供給を可能にする流通システム構築のために様々な取り組みを行っています。)
【写真 : 荒廃した針葉樹林】
「人工針葉樹林のスギやヒノキは、伐採できるまでの年齢に達したのに、木材が売れない。」
「売れたとしても、伐採や搬出の費用を差し引くと、収入が得られない。」
そんな状況が、山林の所有者を襲いました。
山林の所有者に、間伐などの手入れを行う気力がなくなってしまうのも、当然のことと言えるでしょう。
苗木を植える時には、成長の途中で枯れてしまったり形が悪くなったりする木が生じることを考えて、高い密度(1ヘクタールに2,000から3,000本)で植えます。
それらの木々を、成長の過程で、何度かにわけて、少しずつ切っていくのが、間伐という手入れです。
本来であれば40から50年の間に、1ヘクタールあたり600本程度にしていきます。
しかし、手入れを受けないまま、高密度で成長してしまった人工針葉樹林が、数多くなってしまいました。
その結果生じたのが、「人工針葉樹林の荒廃」なのです。
それでは、どのような問題が起きているのでしょうか?
・ 地面の土が、雨水などによって流されやすくなり、、山地の土砂が流出して災害が発生するのを防止する機能が果たされなくなる
・ 植生(植物の多様性)が単純になり、多くの生物をはぐくむ機能が果たされなくなる
・ 雨水が地面に浸み込みにくくなり、水源となって川や湖沼などの水を養う機能、および洪水を和らげる機能が果たされなくなる
・ 樹木がお互いに陰になり、十分な成長ができない。
・ 樹木が二酸化炭素を大気中から減らし、酸素を供給する大気の成分を調整する機能が果たされなくなり、地球温暖化の進行を抑止する働きがなくなる
(※ 若い木は、成長が早く、盛んに光合成を行い多くの炭素を吸収しますが、高齢に達した樹木は、光合成の活動をあまり行わなくなります。)
・ 地面が雨水を浸み込ませる機能が低下する半面、葉の量が多い成熟した木々は、その多量の葉から水分を空気中に蒸散させるので、緑のダムとしての機能を失う。
いずれも、深刻な問題です。
そこで、森林の公益的機能を復活させるために「森林の整備」を行うことが重要な国の課題となりました。
人工針葉樹林の荒廃は、森林が持つ公益的機能をいちじるしく低下させてしまい、わたしたちの生活基盤が崩れてしまいます。
そのようなことを改善するため、県では、 「治山事業」 や 「とちぎの元気な森づくり税事業」 によって、森林の緊急的な整備に取り組んでいます。
もっとも基本的な人工針葉樹林の整備は、本数調整伐というものです。
過密になった森林の中から、何割かの木を伐採します。
一度に多くの木を切り過ぎると、残った木が、風や雪による被害を受けて折れてしまったりする被害が起きます。
逆に、木を残し過ぎると、効果が現れません。
荒廃した林の平均的な木の太さや高さ、本数の密度を調べて、どの程度の割合を伐採するか計算して決定します。
適正な本数調整伐が行われると、森林のなかに太陽の光が差し込み、地面には小型の樹木や草類などが育ち、土砂の流出を防ぎ、生物の多様性を高め、
雨水の地下への浸透を促進するようになります。
約50年前、盛んに針葉樹の植林(苗木を植えること)が行われた時代には、生物の多様性が人間の持続的な生活に重要であるものだという認識は、
国民や行政の中で、それほど強くはありませんでした。
しかし、近年、生物多様性の重要性が国際的に広く認識されてきたことによって、スギやヒノキだけで成り立っている単調な(森林を構成する樹木の種類の数が少ない)森林が、
国土の広い面積を占めている現状を問題だとする意識が広がってきました。
そこで、人工針葉樹林の一部を、生物的により多様なものにするために、針葉樹と広葉樹が入り混じっている森林に変えて行ったり、
また、木材生産活動に向かない地形にある人工針葉樹林は、「潜在的自然植生(人の手が加わらなかった場合、自然に育っていただろうと推定される樹木や植物の種類。
その場所の地理や気候的条件から推定される。)」である広葉樹林に戻していくことも推進しています。
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