栃木県水環境保全計画

第4章 水環境に関する施策

 

基本目標2

豊かな水を育む流域を保全する

1 水の有効利用の推進

(1)節水の推進

課 題

  • 生活用水の使用量は、水道普及による給水人口の増加により増加傾向にあるが、「節水型社会」を目指すため、より一層の節水を進めることが重要である。

施策の内容

 1.節水意識の醸成

  • 「水道週間」や「水の週間」行事の実施等を通じて、水の大切さや節水等について、県民意識の醸成を図る。

 2.水道配管の漏洩防止

  • 水道配管からの漏水等に対処するため、水道事業者等が実施する老朽管の更新を促進する。

(2)水の循環利用の推進

課 題

  • ビルや学校、住宅団地などを新しく建設する際に、水洗トイレ用、散水用水など飲料水より低いレベルの水質でもよい用途の水に対して、雨水や一度使った水を処理して再利用する「中水道」については、現在のところ、処理水量が一定せず不安定なことや、再利用の目的、使用する水量などにより使用コストがかなり異なること等の課題がある。

  • 水の循環利用を高度化しても水は最後に汚水として処理される。また、下水道普及率の向上により、今後、処理水が1か所に大量に発生することになる。水資源の循環利用を考える上で、処理水のリサイクルを実現することが重要である。

  • 工業用水の使用量は、年々増加傾向にあるものの、一度使用した水を再利用する回収利用(「回収水」)が進んでおり、工業用水道や井戸水等から新たに取水する量(「補給水」)はほぼ横ばい傾向にある。今後も回収水量を増加させ、補給水を低減していく必要がある。

  • 農業用水は、利用後大部分が河川や地下水に還元され、下流で再び農業用水や都市用水に利用されている。このように農業用水は、地下水のかん養や河川流況の安定などにも役割を果たしており、健全な水循環の基礎となっている。

施策の内容

 1.雑用水利用の普及

  • 公共施設等において、雨水等の再利用による雑用水利用を推進し、県民への普及を図っていく。

 2.処理水の利活用

  • 下水処理場や農業集落排水処理施設からの処理水を修景用水、農業用水などに再利用する。

 3.工業用水の回収利用

  • 工業用水は、一度使用した水を回収して繰り返し再利用するなど、有効利用が図られているが、今後とも回収率の向上を図り、再利用に努める。

 4.農業用水の効率的な利用

  • 農業用水の反復利用を推進するとともに、水管理制御等、水の有効利用に向けた施設の整備を支援する。

(3)地下水の保全と適正利用

課 題

  • 生活用水の約6割、工業用水の約7割、農業用水では約3割を地下水に依存しており、本県の貴重な水資源として保全していくことが重要である。

  • 県南地域の平野部では、深層地下水の過剰なくみ上げ等の影響により、地盤沈下が進行している。

施策の内容

 1.地盤・地下水の現況把握

  • 地盤沈下の状況を把握するため、精密水準測量を継続して実施する。

  • 地盤沈下観測所における地下水位、地盤変動の測定を継続して行う。

 2.地下水の適正利用

  • 栃木県地下水揚水施設に係る指導要綱に基づき、揚水施設による地下水の採取に関し、採取量や揚水機の規模等が適正な施設となるよう指導する。

  • 地盤沈下対策のため、地下水の過剰な採取を規制する条例の制定を検討する。

2 森林の保水機能の向上

(1)森林の保全

課 題

  • 本県の森林面積は約350千haで、県土の約55%を占めている。保安林の指定面積は約170千haで、そのうち、水源を守り、水を蓄え、洪水や渇水の発生を防ぐための水源かん養保安林の面積は約129千ha(保安林面積の約76%)である。近年、森林施業の遅れなどにより、森林の水源かん養機能の低下が懸念されている。

施策の内容 

 1.森林の整備

  • 森林計画に基づく水源地域の特性に応じた適切な森林整備に対して支援を行う。

  • 水源地域における森林の保水機能を高めるため、荒廃森林等の整備や人工林の複層林施業*1に対して支援を行う。また、路網整備とともに除間伐・枝打ち等を実施する

 2.保安林の指定及び適切な整備

  • 水源かん養等の公益的機能を高度に発揮させる森林を保安林として指定し、その保全と適切な森林施業を促進する。

 3.平地林の保全

  • 里山の保水機能を確保するため、保安林の指定などを推進し、平地林の適正な管理に努める。

*1 一斉に伐採するのではなく、少しずつ伐採し、伐採したところには新たに苗木を植えたり、すでに天然に生育している稚樹を育成するという森林整備をいう。

(2)開発等における保水機能への配慮

課 題

  • 森林の開発等、森林の減少による保水機能の低下が懸念される場合の代替措置の検討が必要である。

施策の内容 

  • 開発等に当たっては、必要に応じて雨水浸透や貯留施設の設置等の代替措置を講じるよう指導するなど保水機能の低下抑制に配慮する。

3 農地の保水機能の向上

(1)農地の整備保全

課 題

  • 農地は、保水能力が高い土地であり、洪水調整機能等の多面的機能を有している。近年、農用地面積の減少や、耕作放棄地の増加が進行している。

施策の内容

 1.耕作放棄地の活用

  • 耕作放棄地の発生防止と解消に向けて、担い手への農地の集積を図るとともに、生産性の高い農業を確立するため、その基盤となる圃場整備事業等の農業生産基盤整備事業を実施し、農地の適切な維持管理を推進する。

  • 景観作物等の導入や援農ボランティアによる農地の保全、復旧を図る。

 2.棚田・谷津田の保全

  • 国土保全や水源のかん養など、多面的機能を持つ棚田や谷津田*1の保全整備を促進する。

  • 多様な地域住民活動やボランティア活動による農業生産活動を通じて耕作放棄地の発生を防止する。

 3.優良農地の確保と保全

  • 自然環境や地域の特性に応じた農業振興地域制度の適正な運用により、農業以外の土地需要に対する利用区分の明確化を図り、優良農地の確保と保全に努める。

*1 斜面林に囲まれた盆地状の田んぼで、雑木林と湿地の生物が行き来する豊かな自然環境を持つ。

(2)農業生産基盤の整備

課 題

  • 農業用用排水路のコンクリート化等による整備は、水生生物や農村景観との調和等への影響が懸念されている。

  • ため池は、主に農業用水の確保や洪水調整機能を有していることから、適正に維持管理していく必要がある。

施策の内容

 1.環境に配慮した農業用用排水路の整備

  • 農業用用排水路の機能を維持しながら、多自然型工法など環境に配慮した整備について、関係土地改良区及び農業者の合意を得ながら進めていく。

  • 生態系に配慮した整備手法を講じるなど、環境との調和に配慮した農業農村整備を推進する。

 2.ため池の整備

  • 生態系等の水辺環境に配慮するとともに、農業用水の安定的な確保や洪水調整による農地の浸食防止を図るための整備を推進する。

4 都市部及びその周辺部の保水機能の向上

(1)雨水の流出抑制

課 題

  • 市街地等における雨水浸透域の減少や都市化による農地、平地林の減少等により都市部及びその周辺部において、雨水を蓄えて時間をかけて流すという保水機能が低下している。

施策の内容 

 1.雨水貯留・浸透施設の設置

  • 降雨時における河川への急激な雨水の流出を抑制し、地下水のかん養を進めるため、水質の保全に配慮しながら雨水貯留・浸透施設の設置の普及を図る。

 2.透水性舗装の整備

  • 地下水のかん養や街路樹の育成を助けるなど多面的な効果が期待できる透水性舗装*1の導入を推進する。

*1 雨水を多孔質な表層から路盤、路床に浸透させる舗装。雨天時の歩行快適性の向上、地下水のかん養のほか、間隙水の蒸散による路面温度上昇の緩和等の効果があるが、路盤の強度の維持等に課題がある。

(2)緑地の整備

課 題

  • 流域の保水能力の維持、向上と地下水のかん養を図るため、緑地を保全、創出することが強く望まれている。

施策の内容 

 1.都市公園の緑化の推進

  • 緑の保全、創出を図るため、都市公園の緑化を進める。

 2.都市緑化の推進

  • 地域の特性に応じた道路・河川・公園等の公共施設の緑化、緑地協定の締結、民有地の緑の保全など都市緑化を推進するため、市町村が地域住民と協力しながら作成する緑の基本計画の策定を促進する。

 3.緑化活動の推進

  • 学校緑化や地域緑化に貢献する緑の少年団活動を支援するとともに、様々な森林・緑づくり活動の支援に活用されている緑の募金を推進する。

  • 道路、河川、公園愛護等のボランティア活動を支援し、緑地の保全と緑化の推進を図る。

(3)開発等における保水機能への配慮

課 題

  • 開発に伴う地下水のかん養や保水能力が低下しないように配慮する必要がある。

施策の内容 

  • 開発に当たっては、できる限り現在の緑地を生かして開発を行うよう配慮するなど、改変に伴う地下水のかん養や保水能力の低下の抑制に努める。

(4)河川の維持流量*1の確保

課 題

  • 河川の水量については、従来、水資源の観点から開発され、また、河川管理の観点から各利用者に配分されてきた。このため、今後は、地下水の維持や水環境に生息する様々な生物のために水量を割り当てるという考え方が必要である。

施策の内容 

  • 安定的な水資源の確保を進め、既得取水の安定化と河川環境の保全等を図る。

*1 漁業、景観、河川管理施設の保護、地下水位の維持、動植物の保護、流水の清潔の保持等を考慮した渇水時において維持すべき流量をいう。正常流量とは、維持流量と基準地点下流における農業用水等の取水のために必要な流量(水利流量)の双方を満足する流量をいう。

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