
大気の汚染に係る環境基準は、「環境基本法」により、環境上の条件について人の健康を保護する上で維持することが望ましい基準として、二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化炭素、光化学オキシダント、浮遊粒子状物質、ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタンの9物質について定められている。
また、12年1月に施行された「ダイオキシン類対策特別措置法」により、ダイオキシン類について環境基準が定められた。
このほか、炭化水素については、光化学オキシダントの環境基準を達成するため、濃度指針が定められている。また、有害大気汚染物質のうち、アクリロニトリル、塩化ビニルモノマー、水銀及びニッケル化合物について、健康リスクの低減を図るための指針値が定められている。
大気汚染に係る環境基準等
物質 |
環境上の条件 |
備考 |
二酸化硫黄 |
1時間値の1日平均値が0.04ppm以下であり、かつ、1時間値が0.10ppm以下であること |
環境
基準 |
二酸化窒素 |
1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること |
一酸化炭素 |
1時間値の1日平均値が10ppm以下であり、かつ、1時間値の8時間平均値が20ppm以下であること |
光化学オキシダント |
1時間値が0.06ppm以下であること |
浮遊粒子状物質 |
1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下であり、かつ、1時間値が0.20mg/m3以下であること。 |
ベンゼン |
1年平均値が0.003mg/m3以下であること。 |
トリクロロエチレン |
1年平均値が0.2mg/m3以下であること。 |
テトラクロロエチレン |
1年平均値が0.2mg/m3以下であること。 |
ジクロロメタン |
1年平均値が0.15mg/m3以下であること。 |
炭化水素 |
午前6時から9時までの非メタン炭化水素の3時間平均値が0.20ppmCから0.31ppmCまでの範囲内又はそれ以下であること。 |
濃度
指針 |
アクリロニトリル |
1年平均値が2μg/m3以下であること。 |
指針値 |
塩化ビニルモノマー |
1年平均値が10μg/m3以下であること。 |
水銀 |
1年平均値が0.04μgHg/m3以下であること。 |
ニッケル化合物 |
1年平均値が0.025μgNi/m3以下であること。 |
(1) 大気汚染常時監視
本県では、「大気汚染防止法」に基づき大気汚染の状況を36か所の測定局で監視している。私たちの身のまわりの大気環境を測定する「一般環境測定局」が26局、自動車の排出ガスの影響を測定する「自動車排出ガス測定局」が10局整備されており、測定は、県が28局(一般環境19局、自動車排出ガス9局)、宇都宮市が8局(一般環境7局、自動車排出ガス1局)で行っている。
これらの測定データは県保健環境センター内の大気汚染監視室で集中監視しており、大気汚染状況の把握、光化学スモッグ注意報の発令等、緊急時の対策を迅速に行っている。


(2)
環境基準等の達成状況
○ |
二酸化硫黄については、長期的評価、短期的評価ともにすべての測定局で環境基準を達成している。 |
○ |
浮遊粒子状物質については、長期的評価では、32測定局中30測定局で達成しているが、短期的評価では、32測定局中9測定局の達成にとどまっている。 |
○ |
二酸化窒素については、すべての測定局で環境基準を達成している。 |
○ |
光化学オキシダントについては、すべての測定局で環境基準が達成されていない。 |
○ |
一酸化炭素については、すべての測定局で、長期的評価、短期的評価ともに環境基準を達成している。 |

(注)
1 長期的評価とは、年間にわたる測定結果を長期的に観察した上で評価する方法をいう。
2 短期的評価とは、連続して、又は随時に行った測定結果により、測定を行った日又は時間について評価する方法をいう。
3 有効測定局とは、測定時間が6,000時間以上の測定局をいう。
4 一般局とは一般環境測定局、自排局とは自動車排出ガス測定局をいう。
(3) 二酸化硫黄
二酸化硫黄は、一般環境測定局18か所で測定しているが、その結果は、全測定局の年平均値が0.004ppmであり、近年減少傾向にある。
これまでの法規制、燃料の低硫黄化、工場指導等により、工場・事業場からの汚染物質の排出量は着実に削減が図られてきた結果と考えられる。

(4) 浮遊粒子状物質
浮遊粒子状物質については、一般環境測定局(22か所)と自動車排出ガス測定局(10か所)で測定している。その結果、長期的評価では、一般環境測定局で22局中21局、自動車排出ガス測定局で10局中9局で環境基準を達成しており、近年良好な状況である。

また、一般環境測定局の年平均値は0.026mg/m3、自動車排出ガス測定局の年平均値は0.034mg/m3であり、ここ数年横ばい傾向にある。
浮遊粒子状物質の主な発生源は工場・事業場や自動車であるが、黄砂や道路粉じんの影響が出ることもあり、発生源は多様である。

(5) 二酸化窒素
二酸化窒素については、一般環境測定局(21か所)と自動車排出ガス測定局(10か所)で常時監視を実施している。一般環境測定局における年平均値が0.015ppm、自動車排出ガス測定局では0.023ppmであり、一般環境測定局では横ばい傾向であるが、自動車排出ガス測定局では近年減少傾向にある。

(6) 光化学オキシダント
光化学オキシダントについては、県内20か所で常時監視を実施している。その結果は、昼間(5〜20時)の年平均値が0.029ppmであり、ここ数年横ばいの傾向にある。
光化学オキシダントの環境基準達成率は、全国的にも極めて低い状況であり、本県においてもすべての測定局で環境基準を達成しておらず、特に夏期においては気象条件等により高濃度になることがあり、光化学スモッグの発生しやすい状況にある。

本県では、光化学スモッグ発生予報業務を、4月1日から9月30日までの183日間実施している。その結果は、注意報の発令日数が7日であった。

地域別発令状況は、県南西部が4日、県南部が6日、県南東部が1日、県中央部が6日、県北西部が3日、県北東部が2日であった。
16年度は県南部で健康被害の報告があり、小学生11人が目がチカチカした、のどが痛かった等の症状を訴えた。
(7) 一酸化炭素
一酸化炭素については、一般環境測定局(3か所)と自動車排出ガス測定局(7か所)で常時監視を実施している。一般環境測定局の年平均値は0.4ppm、自動車排出ガス測定局は0.6ppmであり、自動車排出ガス規制の強化に伴い、いずれの局も近年減少傾向にある。

(8) 炭化水素
炭化水素については、一般環境測定局(5か所)と自動車排出ガス測定局(6か所)で常時監視を実施している。非メタン炭化水素の結果をみると、6〜9時における年平均値は、炭素換算で一般環境測定局は0.22ppm、自動車排出ガス測定局は0.25ppmであった。一般環境測定局では横ばい傾向であるが、自動車排出ガス測定局では減少傾向を示している。

(9) 有害大気汚染物質
健康リスクが高いと考えられ優先的に対策に取り組むべきとされている有害大気汚染物質(22物質)のうち、測定方法の確立されている18物質について、「大気汚染防止法」第18条の23の規定に基づき一般環境3地点(宇都宮市、栃木市、大田原市)、固定発生源周辺3地点(16年度は、宇都宮市、真岡市、足利市の工業団地周辺)、沿道1地点(小山市)の合計7地点で、月1回24時間の採取により、年間を通じてモニタリングを実施した。
環境基準及び指針値が設定されている8物質は、すべて環境基準及び指針値を満足していた。
ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン及びジクロロメタンの10年度からの経年変化を下の図に示す。




(10) 酸性雨
欧州や北米等においては、酸性雨が原因とみられる湖沼の酸性化や森林被害などが広域的に発生し、地球規模の環境問題の1つとして注目されている。
酸性雨は、工場等のばい煙や自動車排出ガスに含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中に放出され、これらが強酸性の硫酸イオンや硝酸イオンに変化し、雨水中に取り込まれて生ずると考えられている。一般にpH5.6以下の雨が酸性雨といわれている。

酸性雨調査は、ろ過式採取装置により1ヶ月単位の酸性降下物量の調査を4地点で、また、酸性雨自動測定装置により降水量0.5mmごとのpH、EC(電気伝導度)の常時監視を3地点で、それぞれ実施している。
ろ過式採取装置による調査結果では、4地点のpHの年平均値は4.58〜5.32(15年度4.75〜6.21)の範囲であった。

また、酸性雨自動測定装置による調査結果では、2地点のpHの年平均値は、小山で4.9(*)(15年度4.7)で、大田原で4.7(15年度4.6)であった。

河内町は装置不調のため欠測とした。
また、酸性雨は広域的な汚染でもあることから、中長期的な影響の把握のための「酸性雨長期モニタリング」(国からの委託事業)や、関係都県との共同調査(関東地方環境対策推進本部の酸性雨共同調査)に積極的に参加するなど、調査・研究等を継続して実施している。
(*)落雷の影響による装置故障のため8月は欠測とし、11か月の平均値。
(11) 佐野市葛生地区における降下ばいじん量調査
佐野市葛生地区は、石灰鉱山等の密集地帯で道路沿道の粉じん量が多い地域であるため、断続して降下ばいじん量の測定を実施している。
16年度は、沿道を中心に3地点で調査を実施した。
その結果は年平均値で4.3〜12.9t/km2/月(15年度で4.6〜14.2t/km2/月)であり、長期的に減少傾向にある。
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