第2部 環境の状況と保全に関して講じた施策

第2章 人と自然が共生する潤いのある地域づくり

 私たちは、自然の中から生きるために必要な空気や水、食料などの物質的な恵みを得ているばかりではなく、自然に接したときに感じる安らぎや潤いなど精神的にも大きな恵みを受けている。
  この自然の恵みを将来にわたって受け続けるためには、人も自然の生態系を構成する一員であるという認識に立って、自然環境の微妙な均衡を損なわないよう、自然に対して適切に働きかけるとともに、賢く利用していく必要がある。
  特に、本県は、日光国立公園に代表されるような優れた自然や平地林等の身近な自然、多様な生態系に恵まれており、全国に誇れる美しい自然景観を保っている。また、県土の約55%を占める森林は、水源のかん養、二酸化炭素吸収機能など公益的機能を有しており、これらの機能の高度発揮を図っていく必要がある。
  このため、環境を支える森林づくりを進めるとともに、多様な自然環境や生物多様性を保全し、様々な自然とのふれあいの場や機会を確保することにより「人と自然が共生する潤いのある地域づくり」を目標とする。

第1節 環境を支える森林づくり

森林の整備・保全の現状

(1) 本県の森林の概要

  18年度末における本県の森林面積は、県土面積約64万haの55%にあたる約35万haとなっている。県土面積における森林面積の割合(森林率)は全国で第27位にあたる。(図2−2−1)
  森林の所有別内訳は、国有林が約13万ha(本県森林の37%)、民有林が約22万ha(本県森林の63%)となっている。また、民有林における樹種別面積割合は、スギが31%、ヒノキが20%、その他針葉樹が9%、広葉樹その他が40%となっており、スギ・ヒノキを中心とした人工林面積は約12万ha(民有林面積の55%)となっている。(図2−2−2、表2−2−1)

図2−2−1 県土面積における森林の割合
(18年度末)
図2−2−2 県内所有別・人工天然林別
森林面積の割合(18年度末)

表2−2−1 民有林における樹種別面積割合
区分 割合 樹種(全体に占める割合)
針葉樹 60% スギ(31%)、ヒノキ(20%)、その他針葉樹(9%)
広葉樹 40% クヌギ(2%)、その他広葉樹(38%)

(2) 森林の整備状況

ア 造林面積の推移

 造林面積は昭和53年度の2,100haをピークに減少傾向を示し、18年度には、ピーク時の2割を下回る344haにまで落ち込んでいる。(図2−2−3)

イ 民有人工林の齢級別構成〜間伐を必要とする森林の状況〜

 本県の民有人工林全体の約5割が、間伐を必要とする(V〜\齢級(11〜45年生))森林になっている(面積62.8千ha)。その半数近くが間伐の遅れた森林であり、荒廃の危険性が高まっている。特に奥地など条件の悪い箇所の遅れが顕著で早急な対策が必要である。本県では、これらを中心に14年度から18年度までの5年間で約2万haの間伐を実施し、健全な森林づくりに努めてきたが、未だに手入れの行き届かない森林が多く残されている。(図2−2−4)

図2−2−3 造林面積の推移

図2−2−4 県内民有人工林におけるスギ・ヒノキの林齢別面積(18年度末)

(3) 森林の有する多面的機能

  森林は多面的な機能を有しており、県民の生活と深くかかわっている。12年に農林水産大臣から日本学術会議に対して「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」諮問され、その答申(13年11月)では、森林には次のような機能があるとされている。
   @生物多様性保全機能
   A地球環境保全機能
   B土砂災害防止機能・土壌保全機能
   C水源かん養機能
   D快適環境形成機能
   E保健・レクリエーション機能
   F文化機能
   G物質生産機能
  近年、二酸化炭素を吸収・固定する働きから、地球環境保全機能が国際的に重要視されている。

(4) 保安林の面積と推移

  水源かん養や土砂流出防備など森林の公益的機能をより高度に発揮させていくことを目的に指定する保安林については、国有林、民有林ともに着実に増加しており、18年度末現在の指定面積は約18万3千haで、その内訳は国有林が62%(国有林面積の約8割)、民有林が38%(民有林面積の約3割)となっている。(図2−2−5)

図2−2−5 保安林面積の推移

(5) 適正な森林整備の推進

  森林は、所有者等による植林から伐採までの林業生産活動や病虫獣害の防除・森林火災の防止などの適正な管理を通じ、その多面的機能を維持向上させ、県民の生活環境を守るという重要な役割を担ってきた。
  しかし、長引く木材価格の低迷や生産コストの上昇等による林業採算性の低下、担い手の高齢化などにより、健全な森林を育成する間伐等の適正な施業が進みにくい状況にあり、林業生産活動を通じた森林の持つ公益的機能の持続的な発揮にも支障をきたすおそれが生じている。
  このような中、森林を県民共有の財産として次の世代に引き継ぐため、県民一人ひとりが森林の大切さを認識し、果たすべき役割を考え、できることから取り組む新たな仕組みの構築が課題とされている。

(6) 森林を支える林業の振興

  木材生産を始め、二酸化炭素吸収や水源かん養等の森林の持つ多面的機能の発揮には、人工林における持続的な林業生産活動が不可欠であり、このためには「木を植え、育て、伐って利用し、また植える」という森林資源の循環利用を推進することが重要である。
  そこで、林業担い手の確保・育成や林道・作業道等の基盤整備の促進などに取り組んでいる。しかしながら、木材価格の低迷等による林業採算性の悪化を反映して、森林所有者の施業実施に対する意欲が減退しており、積極的に低コスト生産に取り組んでいる一部の森林所有者等を除き、間伐等の森林施業が依然として小規模・分散型でコスト高の傾向で行われていることなどから、木材生産が安定的に行われにくい状況となっている。
  このため、計画的かつ効率的な森林施業の促進による事業規模の拡大や森林施業コストの低減を図るなど林業採算性の向上が課題となっている。

森林づくり対策

(1) 森林の公益的機能の向上

間伐等森林整備の促進

  森林の持つ二酸化炭素の吸収・固定をはじめとする公益的機能を持続的に発揮させるため、森林所有者への支援や県・森林整備公社による公的森林整備により間伐等の森林整備を促進している。18年度は約4,900haの間伐を含め、造林、下刈り等の森林整備を約7,000ha実施した。
  このうち、自然災害などにより公益的機能の低下した保安林においては、県が実施主体となり、保安林整備事業等により森林整備を推進している。また、林道から遠いなどの条件により所有者による施業が困難な奥地の保安林以外の森林等においては森林整備公社が実施主体となり、スギ・ヒノキの間伐や広葉樹植栽等の森林整備を推進している。18年度は県、森林整備公社で約1,400haの間伐や広葉樹植栽等の森林整備を実施した。

イ 多様な森林の育成

  森林の持つ公益的機能を持続的かつ高度に発揮させるためには、間伐の促進とともに複層林施業や長伐期施業育成天然林施業、広葉樹林整備等による、多様な森林の育成が重要である。
  18年度は約100haの複層林整備、約680haの広葉樹林整備を含め、多様な森林の育成を図る目的で、約2,200haの森林整備を実施した。

ウ 県民参加の森林づくりの推進

  森林の大切さについて情報提供を行うとともに、森づくり体験講座の開催や公募による森づくり活動の実施など、体験活動を通して森林環境の保全に対する県民意識の醸成を図った。 
  また、森林ボランティアの相互交流を深める取組をはじめ、ボランティアやNPO、企業等の上下流交流による協働水源の森づくり推進事業を実施するなど、県民参加による森林整備活動の促進を図った。

エ とちぎの元気な森づくり県民税の導入に向けての取組

  森林の有する公益的機能の向上に向けて、県民協働の森づくりを目的とした本県独自の税制度について、必要性、使途、仕組み等の検討を行うため「県民協働森づくりに関する有識者会議」(学識経験者等が委員)を18年度に4回開催(計7回)した。この有識者会議から7月31日に知事へ提出された提言の内容は『公益的機能を持つ森林を県民共有の財産と捉え、社会全体で支える新たな取組が必要であり、その財源として県民の合意を得た上で「森林環境税(仮称)」の創設が適当である。また、県民協働による森づくりを進めていくためには、何より県民の理解促進が必要である。』とするものであった。
  この提言を踏まえ、県では税の導入及び県民協働による森づくりの取組について検討を進めたほか、とちぎ元気フォーラムやとちぎ県民だよりなどを通じて、森林の大切さや社会全体で森林を守り育てていくことの必要性について広聴・広報活動を実施した。加えて、とちぎの元気な森づくりシンポジウムや、県内各地で県民協働森づくりフォーラム(各林務事務所毎に)を開催し、延べ2,500人の参加を得て、新たな税の必要性等について、意見交換を行い、県民理解の促進を図った。(図2−2−6)

オ 森林資源の循環利用の推進

  森林資源の循環利用を推進するため、森林施業の中核を担う森林組合等林業事業体の新規就業者確保育成支援や経営改善指導を行うとともに、低コスト林業の基盤となる林道や作業道の整備を促進した。また、木材の高次加工に不可欠な人工乾燥施設等の導入支援や「とちぎ木の県推進運動」の展開等により、高品質な県産材の安定供給と利用拡大に努めた。

(2) 森林の適正管理

ア 森林計画制度による森林管理の推進

  森林計画制度は森林法において体系付けられており、国が策定する全国森林計画に即して、県が地域森林計画を、市町村は地域森林計画に適合した市町村森林整備計画を策定している。
  地域森林計画は、民有林を対象とした10年を1期(前期・後期)とする計画であり、本県では県内を那珂川・鬼怒川・渡良瀬川の3つの森林計画区に区分している。
  18年度においては、19年度を初年度とする渡良瀬川地域森林計画を策定し、那珂川及び鬼怒川地域森林計画の一部変更を行った。
  また、計画的な森林整備を図るため、森林計画図や森林簿、施業履歴など民有林に関する様々な情報について一元的に管理・分析する「森林GIS」を整備した。

保安林・林地開発許可制度による森林の保全

  保安林指定の拡大等により、森林の持つ公益的機能の高度発揮と森林の保全を推進した。
また、本県民有林の保安林整備(指定、森林整備、管理)の適正な推進を図るため、17年度に策定した「栃木県保安林整備基本計画」に基づき、具体的行動計画である「栃木県第1期保安林整備実施計画」の策定を進めた。
  さらに、森林の有する公益的機能や環境との調和を損なうことなく、秩序ある開発行為を促すための林地開発許可制度に基づき、適切な許可と指導に取り組んだ。

ウ 森林被害対策の推進

  森林の病害虫等被害を早期に発見し、適切な対策を実施するため、市町村や関係団体等と連携して被害対策を図っている。 
  18年度は松くい虫被害防除対策として200haの森林で薬剤散布を実施したほか、3,800mの被害木の伐倒駆除等を実施した。
  また、貴重な県民共有の財産である森林が一瞬で焼失してしまう森林火災を防止するため、山火事防止の普及啓発活動を実施している。
  18年度は、山火事防止の普及啓発活動として広報車による巡回を県内全域で行ったほか、テレビ・ラジオによる山火事防止CMの放送やリーフレット配布等の広報活動を実施した。