第2部 環境の状況と保全に関して講じた施策

第2章 人と自然が共生する潤いのある地域づくり

第3節 生物多様性の保全

1 野生生物の生息等の状況 

(1) 野生生物の生息等の状況

本県では、緯度と標高に対応する気候の多様性と、人間活動が生物相に及ぼしている影響の地域差が大きな要因となって、生息する生物の種類や個体数は地域によって大きく異なっている。

本県を特徴付ける野生生物としては、本県固有の植物で世界的にも貴重な植物であるコウシンソウ、全国有数の生息数を誇る希少猛禽類のオオタカ、日本固有の淡水魚で本県と千葉県のごく一部にのみ生息地が残されているミヤコタナゴ、県内唯一の生息地が分布の南限となっている希少昆虫のカラカネイトトンボなどが挙げられる。

また、近年、シカ、サル、クマ、カワウなど特定の野性鳥獣の生息数増加や生息域の変化により、農林水産業被害や自然植生に対する食害が発生し、大きな問題となっている。特に、奥日光では、ニホンジカの食害により貴重な高山植物や湿原植物の消失や樹皮食害による樹木の枯損など、生態系のバランスが崩れつつある。

(2) 絶滅のおそれのある野生生物の現況

近年、地球環境の悪化により野生生物種の絶滅が加速度的に進行し、問題となっている。

県では、5年から11年度にかけて実施した県内の野生生物等の状況についての基礎調査結果について、12年から14年度に10部門の報告書としてまとめて発行した。さらに、14年1月には「野生生物保全対策専門委員会」を設置し、栃木県版レッドリスト作成を目的として調査・検討を重ね、16年度に絶滅のおそれのある野生動植物種等の現況をまとめた報告書である「レッドデータブックとちぎ」を作成した。

レッドデータブックとちぎにリストアップされている絶滅のおそれのある野生動植物のカテゴリー別の状況は以下のとおりである。(表2−2−4)

表2−2−4 レッドデータブックとちぎ掲載種等のカテゴリー別集計表

植物群落(植生)     (群落)
分 類 群 壊滅(極悪) 劣悪 不良 やや不良 良好
植物群落
(植生)
単一群落 6 32 32 99 22 191
複合群落   1 5 7   13
6 33 37 106 22 204
動物・植物・菌類      (種)
分 類 群 絶滅 絶滅
危惧
1類
絶滅
危惧
2類

絶滅
危惧
情報
不足
絶滅の
おそれの
ある地域
個体群
要注目
Aランク Bランク Cランク
維管束
植 物
シダ植物 2   1 15 6   9 33
種子植物 30 91 142 129 17 6 30 445
維管束植物計 32 91 143 144 23 6 39 478
蘚 苔 類   8 16 9 4   8 45
藻   類   4 6   1     11
地 衣 類   22 11 25   5   63
菌   類   6   6     28 40
変 形 菌 類 2       5   4 11
哺 乳 類 2 4 5 2 9   6 28
鳥   類   17 9 37 1     64
爬 虫 類     1 2 5   5 13
両 生 類     4 2     7 13
魚   類   6 5 3     3 17
貝 類 淡水産貝類   3   1 1     5
陸産貝類   4 12 8 2   3 29
貝類計   7 12 9 3   3 34
昆   虫 10 50 52 156 20 1 133 422
土壌動物   1 1 2 15   24 43
46 216 265 397 86 12 260 1,282
(3) 鳥獣保護区の指定状況

鳥獣保護区は、鳥獣の捕獲等又は鳥類の卵の採取等を禁止し、その安定した生存を確保するとともに、多様な鳥獣の生息環境を保全、管理及び整備することにより、鳥獣の保護を図ることを目的として指定されるものであり、これらを通じて地域における生物多様性の保全にも資するものである。

県では、14年度から18年度までの5年間を対象とした「第9次鳥獣保護事業計画」に基づき、鳥獣保護区や特別保護地区、休猟区の指定を推進している。(表2−2−5)

表2−2−5 鳥獣保護区等の指定状況(17年度末)
区   分 箇所数 面  積 (ha) 備   考
鳥獣保護区 110 82,933 うち特別保護地区 18か所 6,398ha
休猟区 4 3,740  
114 86,713  
(4) 外来種の生息等の状況

従来その地域に存在していなかった動植物が人為的な要因により持ち込まれた結果、その地域特有の生態系等に影響を及ぼしていることが問題となっており、17年6月には「特定外来生物による生態系に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」が施行された。

本県においても、オオクチバス等の外来魚を中心に複数の外来種が確認されており、生態系への影響が懸念されている。

2 生物多様性の保全対策

(1) 多様な野生生物の保護
ア 調査研究

クマ、シカ、カワウ等の生息数調査を実施した。

また、愛鳥週間用ポスターコンクールや野鳥写真展等による保護意識の啓発を図った。

さらに、傷病鳥獣救護事業により獣医師やボランティアと協働して野生鳥獣の保護を実施した。

イ 土地利用における野生生物への配慮

大規模な土地利用や開発事業の実施に当たっては、事業者に対し環境影響評価制度や自然環境保全協定制度に基づく野生生物の調査の実施や、希少種を中心とした保護対策を指導した。

(2) 貴重な野生動植物種の保護
レッドデータブック普及啓発事業等

レッドデータブックとちぎを広く県民に周知し、普及啓発を図るため、県立博物館と共催でレッドデータブック企画展を開催するとともに、リーフレットを作成、配布した。

また、レッドデータブックとちぎのホームページを作成し、検索機能を充実させることで、さらに利用者の利便性を高めた。

イ ミヤコタナゴの保全対策

「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(「種の保存法」)に基づき、6年12月に全国で初めて指定された大田原市の「羽田ミヤコタナゴ生息地保護区」において、環境省、大田原市及び羽田ミヤコタナゴ保存会等と連携し、ミヤコタナゴの生息環境の保全を図ったほか、水産試験場において、ミヤコタナゴの増殖等を行った。

また、県内の他の3生息地においても、関係機関と連携し、ミヤコタナゴの生息環境の保全を図った。

(3) 野生生物の生息・生育空間の確保
ア 田園自然環境保全・再生支援事業

農村地域における農地・水路・ため池等の二次的自然は、有機的に連携して多くの生物相を育み、多様な生態系や自然環境を形成している。これら田園自然環境の保全・再生を行うための地域の自主的な活動を支援している。

イ 湿原保全対策

生物多様性の観点から重要な地域である湿原を保全するため、水文、気候等の調査及び湿原かん養水確保対策等の保全対策を行っている。

また、「奥日光の湿原」が本県で初めてラムサール条約の登録湿地となった。

(4) 野生鳥獣の適正な保護管理

野生鳥獣は自然生態系を構成する重要な要素であるが、一方で、生活環境や農林業、生態系に被害をもたらす場合がある。このため、野生鳥獣の生息状況や生態系等に配慮した科学的・計画的な保護管理を行い、もって自然環境の保全を推進する必要がある。

県では、14年度から18年度までの5年間を対象とした「第9次鳥獣保護事業計画」に基づき、被害防除の取組、飼養の適正化を図るなど、総合的な鳥獣保護事業を実施している。

シカ、サル等については、生息環境の保全や健全な地域個体群の維持を図るとともに、農林水産業被害対策を進めるため、「特定鳥獣保護管理計画」を策定し、関係機関とともに科学的・計画的な保護管理を推進しているほか、クマ、イノシシ、カワウなど広域的な取組が必要な種を含め、「栃木県野生鳥獣保護管理連絡調整会議」や「栃木県カワウ対策検討会」を通じ、保護管理対策に係る連絡調整を行っている。

(5) 外来種の生息・生育状況の調査等
ア 情報収集

外来種の県内における生息・生育状況に関する情報は一部の種のみ把握されているにすぎず、今後とも情報収集に努める。

イ 普及啓発

17年6月「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が施行されたことから、広報誌・パンフレット等により法の趣旨等の普及啓発を図った。

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