2章 エネルギーを取り巻く現状と課題

第2 栃木県のエネルギーに関する地域特性
 4.栃木県における新エネルギーの利用可能量と導入適性
  本県における各新エネルギーの賦存量・利用可能量については、平成11年度の「栃木県地域新エネルギービジョン策定基礎調査」において、以下のような算定方法に基づいて、推計を行いました。また、栃木県の地域特性や栃木県の地域特性から見た導入適性についても分析を行いました。

図表32 栃木県の新エネルギー賦存量・利用可能量の算定方法

新エネルギー 賦存量 利用可能量
太陽光発電 (県域の全天日射量)×(県全面積) (集光面日射量)×(集光可能面積)×(発電効率)
※集光可能面積は県内の建築物の屋根に、建築物の種類ごとに設定した発電モジュールを設置することとして算定
太陽熱利用 (集光面日射量)×(集光可能面積)×(変換効率)
※集光可能面積は県内の建築物の屋根に、建築物の種類ごとに設定した集熱板を設置することとして算定
風力発電 (風車受風面積)×(風車設置可能基数)×(平均風力エネルギー)×(最大理論効率) NEDO算定による各県別の大型風車による発電可能量
温度差エネルギー
(河川水温度差)
(各河川県下の最下流点流量)×(比熱)×(利用温度差)
※温度差の利用特性から、絶対的な熱エネルギーを計算せず、便宜上設定する利用温度差によって賦存量を算定する。利用温度差は、NEF調査と同じ5℃とする。
生態系への影響を勘案し、全体の1%の水量を利用可能量とする。
ヒートポンプによる利用を想定する。
温度差エネルギー
(地下水温度差)
※地下水の賦存量が不明のため算定不能。また、地下水利用に伴う地盤沈下の影響も考えられる。
温度差エネルギー
(下水温度差)
(年間下水処理量)×(比重)×(比熱)×(利用可能温度差) 下水処理水を熱源とするヒートポンプにより得られる熱量とする。
中小水力発電 資源エネルギー庁が都道府県別に集計している包蔵水力のうち、未開発分を賦存量として捉える。 賦存量に等しいとする。
地熱エネルギー Σ{(湧出量)×(利用可能温度差)} 賦存量に等しいとする。
廃棄物エネルギー
(一般廃棄物)
(焼却量)×(発熱量) (焼却量)×(発熱量)×(発電効率)
廃棄物熱利用
(産業廃棄物)
 
Σ{(種類別焼却量)×(種類別発熱量)} Σ{(種類別焼却量)×(種類別発熱量)}×(熱利用効率)
その他排熱利用
(工場排熱)
製造業の工場において、排熱利用が行われることを想定して(工場内エネルギー需要)×(排熱比率)で推計する。 工場においては、既に排熱のカスケード(段階的な)利用が積極的に行われており、回収可能な排熱はかなりの割合で利用されているのが現状である。したがって、未利用排熱は何らかの問題によって利用されていないことが予想され、利用可能量の算出は難しい。 
その他排熱利用
(変電所排熱)
(変圧器定格容量)×(負荷率)×(1−変圧器効率) (エネルギー賦存量)×(COP*×一次エネルギー電力変換効率-1)/(COP+1)/(一次エネルギー電力変換効率)
利用可能量は、エネルギー賦存量を熱源が与える総エネルギー量とするヒートポンプによって得られる熱量とする。
バイオマスエネルギー
(森林資源)
(森林の蓄積増加量)×(発熱量) 森林には二酸化炭素固定化の役割もあることから、その保全の施策を勘案した木材の利用可能量を設定して算出する。
バイオマスエネルギー
(農産資源)
(もみがら、稲わら、麦わらによるエネルギー賦存量の和)
(もみがらによるエネルギー賦存量)=
(稲の収穫量)×(もみがら割合)×(発熱量)
(稲わらによるエネルギー賦存量)=
(単位面積当たりの稲わらの量)×(稲の作付け面積)×(発熱量)
(もみがらによるエネルギー賦存量)=
(麦の収穫量)×(麦わらの割合)×(発熱量)
賦存量に等しいとする。
バイオマスエネルギー
(畜産資源)
家畜の糞尿などからのメタンを対象とし、(飼育頭羽数)×(1頭当たりメタン発生量)×(発熱量)により算出する。 賦存量に等しいとする。
天然ガスコージェネレーション コージェネレーションに賦存量という概念はない。 コージェネレーションによる省エネルギー可能量を設定。
民生用・産業用の別にコージェネレーションを導入しうる施設に導入を図る場合を想定する。
燃料電池 燃料電池は、化石燃料を用いて発電(または発電及び排熱利用)を行うものであり、従来型エネルギーの新たな利用形態であることから、エネルギーの賦存量という概念は存在しない。 (県内電力消費量)×(発電の燃料構成に占める天然ガスの割合)×(1/(一次エネルギー電力変換効率)−1/(燃料電池の発電効率))
クリーンエネルギー自動車 従来型エネルギーの利用形態の転換及び効率の向上であるクリーンエネルギー自動車には、賦存量という概念は存在しない。 クリーンエネルギー自動車には、電気自動車、ハイブリッド自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車などがあるが、ここでは県内のガソリン車両を全てハイブリッド自動車に置き換えた場合に図ることができる省エネルギー量を以下の式によって算定する。
(県内でのガソリン販売量)×(1−(ハイブリッド自動車燃費)/(従来型ガソリン車燃費))
※COP:成績係数のこと。入出力エネルギーの比で示され、消費した電力で、その何倍の熱量が得られたかを表す。COPが高いほどエネルギー効率が高い。
 
賦存量と利用可能量について
 
・賦存量 :存在する全ての量
・利用可能量 :制約はあるものの、取り出すことが可能な量
  ・「賦存量」から、立地上の制約・利用上の制約及び利用効率(変換効率)を考慮して算出する。

 これらの違いは、賦存量が各種新エネルギーが潜在的に持つ県全域でのエネルギー量を表すものであるのに対し、利用可能量は立地上の制約・利用上の制約及び利用効率を考慮した上で最大限に普及を図った場合に、利用可能な形態で取り出し得る最大量です。太陽光発電(太陽エネルギー)を例にとると、賦存量は、県域に降り注ぐ太陽エネルギー全量として、県域の全天日射量を県の面積について積分したものとし、利用可能量は立地上の制約を踏まえて建築物の屋根に太陽電池パネルを最大限に設置するとしたときに得られる電力量とします。
 賦存状況を表すに当たって、賦存量だけでなく、利用可能量という指標を設定するのは、賦存量の概念だけでは、賦存量最大限でのエネルギー利用が現実的にみて不可能に近いものがあり、またコージェネレーションなど未利用エネルギーの使用(エネルギーの効率的利用)については捉えられないためです。

*賦存量・利用可能量の表現について
 本文中において、賦存量・利用可能量はSI(国際単位系)における熱量(仕事量)J(ジュール)で表しています。なお、Jはcal(カロリー)と以下のような関係があります。
  
  1 cal = 4.18605 J
  また、電力W(ワット)はJ(ジュール)と次のような関係にあります。
  1 W = 1 J/s  ( 1 kWh = 3,600 kJ )
  原油換算に用いられる式は次のようになります。
  原油換算1 L = 9,250kcal = 38,720 kJ

*10の整数倍の表現

100

103

106

109

1012

1015

-

K

M

G

T

P

 

キロ

メガ

ギガ

テラ

ペタ

  • 例えば、1012J(1兆ジュール)を"TJ"と表記し、「テラジュール」と呼びます。

 「栃木県の新エネルギー賦存量・利用可能量の算定方法(図表32)」に基づき算定した各新エネルギーの賦存量と利用可能量は以下のとおりです。なお、参考までに各新エネルギーの利用可能量と県内の最終エネルギー消費量、電力消費量との比較をあげておきました。

図表33 栃木県の新エネルギー賦存量と利用可能量

新エネルギー
 
賦存量
(TJ/年)
利用可能量
(TJ/年)
備  考 (*1)
(比較量は平成9年度値)
太陽光発電 28,302,169   20,091 県内最終エネルギー消費量の9%
県内電力消費量の35%
太陽熱利用      5,731 県内最終エネルギー消費量の2.5%
風力発電 4,834 2258 県内最終エネルギー消費の0.1%
県内電力消費量の0.4%
温度差エネルギー
(河川水温度差)
54,250 2,969 県内最終エネルギー消費の1.3%
温度差エネルギー
(地下水温度差)
(*2)
温度差エネルギー
(下水温度差)
2,887    790 県内最終エネルギー消費の0.4%
中小水力発電 1,245
 
  1,245 県内最終エネルギー消費の0.6%
県内電力消費量の2.1%
地熱エネルギー 514    514 県内最終エネルギー消費の0.2%
廃棄物エネルギー
(一般廃棄物)
4,615   1,154 県内最終エネルギー消費の0.5%
県内電力消費量の2.0%
廃棄物エネルギー
(産業廃棄物)
4,926   1,232 県内最終エネルギー消費の0.6%
県内電力消費量の2.1%
その他排熱利用
(工場排熱)
27,738    算定困難
その他排熱利用
(変電所排熱)
978

278

県内最終エネルギー消費の0.1%
バイオマスエネルギー
(森林資源)
7,515    5,516 県内最終エネルギー消費の2.5%
バイオマスエネルギー
(農産資源)
7,243     7,243 県内最終エネルギー消費の3.3%
バイオマスエネルギー
(畜産資源)
4,446     4,446 県内最終エネルギー消費の2.0%
天然ガスコージェネレーション
 
(*3) 民生用   963(*3) 県内最終エネルギー消費の0.4%
産業用  3,793(*3) 県内最終エネルギー消費の1.7%
燃料電池 (*4)    4,643(*4) 県内最終エネルギー消費の2.1%
クリーンエネルギー自動車 (*4) 19,756(*4) 県内最終エネルギー消費の8.9%

(*1) 1997(平成9)年度の栃木県における最終エネルギー消費量:221,162TJ/年、電力消費量:58,140TJ/年。
(*2) 地下水の賦存量が不明なため算定不能。
(*3) エネルギーの効率的利用であるため、賦存量は存在しない。利用可能量は省燃料量として算定。
(*4) 従来型エネルギーの効率的利用であるため、賦存量は存在しない。利用可能量は省燃料量として算定。

 栃木県における新エネルギーの導入適性について、2つの視点(栃木県の地域特性、新エネルギーの利用可能量)から考察を行いました。

図表34 栃木県の地域特性や新エネルギーの利用可能量から見た導入適性  

新エネルギー 本県の地域特性や新エネルギーの利用可能量から見た導入適性
太陽光発電
太陽熱利用
・ 本県の日照時間は1942.3時間と全国的に見て長めであり、特に冬季の日照時間の長さに特徴がある。
・ 地域的に見ると、中央の平野部においてエネルギーの賦存量が大きく(日射量が多い)、県北部の山岳地帯(五十里)や八溝山地において賦存量は少ない(日射量が少ない)。
・ 利用可能量は、他の新エネルギーと比較して大きく、冬季の暖房需要をはじめ、太陽エネルギーの導入効果は比較的大きいと考えられる。
・ 本県の住宅は一戸建てが約77%と、首都圏の各県に比べて一戸建て住宅の割合が大きく、住宅への導入については適している。
・ 太陽エネルギーは、現在のところ事業所・住宅単位で導入が可能であり、住宅の多い都市部において、大量の導入が期待できる。
風力発電 ・ 本県では、全般的に風力のエネルギー密度が低い。県西部から北部にかけての山岳地帯においては、高い密度を示しているが、その大部分が日光国立公園に位置している。
・ そのため利用可能量は全国の0.57%にとどまっており、県全体としての導入適性は高いとは言えない。
・ ただし、局地的にはエネルギー密度が高く、立地可能な場所も存在すると考えられる。
温度差エネルギー
(河川水温度差)
・ 鬼怒川、那珂川、渡良瀬川など大きな河川が流れており、利用可能量も大きい。
・ しかし、利用に当たっては水温上昇等による生態系への影響を考慮する必要がある。
・ また、設備投資コストが高いことから、規模が大きい方が有利であり、小規模個別導入へのメリットは少ない。
・ 利用に当たっては、流量が多く、かつ熱需要の近接地といった地点が適している。
温度差エネルギー
(地下水温度差)
 
・ 地下水の賦存量が不明なため、地下水温度差エネルギーの賦存量は算定できない。
・ また、地下水の利用は地盤沈下への影響に配慮する必要がある。
温度差エネルギー
(下水温度差)
・ 本県の下水道普及率は年々増加しているが、現在のところ、下水処理水の排熱は利用されていない。
・ 下水処理水の熱利用をする場合は、処理水量が多い所ほど多くエネルギーが賦存している。
・ 本県において最も多く賦存しているのは田川第2処理場(宇都宮市)である。次に、足利(足利市)、秋山川(渡良瀬川上流)、田川第1(宇都宮市)、県央(鬼怒川上流)が続く。
・ 利用に当たっては、下水処理量が多く、かつ、熱需要の近接地といった地点が適している。
中小水力発電 ・ 本県は河川の中上流部に位置するため、河川の落差が大きく発電には有利である。
・ 特に、落差の大きい山岳部において、賦存量は大きい。
・ しかし、既に水力発電所として開発されているところも多く、本県の未開発包蔵水力は比較的小さい。
・ 利用に当たっては、自然環境に与える影響に十分に配慮し、ダムの建設にあわせて発電所を設置することが望まれる。
・ また、ダムを要しない、流れの小さな落差を利用するような小規模な発電施設も、導入が可能である。
地熱エネルギー ・ 本県北部に、那須湯本、中塩原、奥板室、川治、鬼怒川という、湧出量2000L/min以上の大規模な温泉地域が5ヶ所ある。
・ 地熱発電については、温泉地域が国立公園内に位置するなどにより、導入適地であるかどうかの調査は実施されていない。
・ 温泉熱水利用については、実績もあることから、利用は可能である。
廃棄物エネルギー
(一般廃棄物)
・ 一般廃棄物の排出量は人口にほぼ比例することから、都市部ほど賦存量は大きい。
・ ごみの焼却による熱エネルギーは、現時点では、温水としての利用が大部分であり、今後は、発電等より効率的な利用が可能である。
廃棄物エネルギー
(産業廃棄物)
・ 可燃性の産業廃棄物を焼却処理する際の熱エネルギーは、一般廃棄物の賦存量とほぼ同程度と推計される。
・ 廃熱利用の現状は不明であるが、マテリアルリサイクルが困難なものについては、エネルギーとしての利用も可能であると考えられる。
その他排熱利用
(工場排熱)
・ 本県は製造業の割合が大きいため、工場におけるエネルギー消費量が多く、また工場排熱も多い。
・ 特に、工業地域や工業団地など、工場が多く立地している区域において多く賦存している。
・ 利用に当たっては、工場内での排熱のカスケード利用と合わせて、工業地帯におけるエネルギーの効率的利用(地域での排熱カスケーディングなど)も考えられる。
その他排熱利用
(変電所排熱)
・ 宇都宮市内においては、既に、変電所排熱を利用した地域熱供給が行われている。
・ 変電所は、県内に分散して存在しているため、得られる熱量と熱需要地が近接している場合には導入が可能である。
バイオマスエネルギー
(森林資源)
 
・ 本県は森林面積が大きいため、間伐材など森林バイオマスの利用可能量が大きい。
・ 特に、県西部から北部にかけての森林地域により多く賦存している。
バイオマスエネルギー
(農産資源)
・ 本県の稲及び麦の収穫量は、いずれも全国で上位10位以内となっており、農産資源バイオマスは多く賦存している。
・ 山間部に位置する市町村においては若干少ないという傾向が見られるが、県内に比較的偏りなく賦存している。
・ 現時点では、肥飼料として農業内利用がされている。
バイオマスエネルギー
(畜産資源)
・ 本県においては、乳用牛、肉用牛の飼育頭数が全国的に見て多く、畜産バイオマス資源は全国に比較しても多く賦存している。
・ 特に、黒磯市、那須町など県北地域での賦存量が大きい。
天然ガス
コージェネレーション
・ 本県は製造業の割合が高いことから、特にエネルギーの効率的利用が促進できる産業用コージェネレーションの導入が適している。
・ ただし、個々のケースに応じて、工場排熱利用などとの優先度を検討する必要がある。
・ また、電力需要と熱需要が近接している病院、ホテルなども導入適性があり、都市部の再開発における地域冷暖房などの形での導入も適している。
燃料電池 ・ 分散型電源である燃料電池は、従来の電力供給を代替するもので、小型のものから大型のものまで幅広い用途に利用可能である。
・ 電力需要と熱需要が近接している病院、ホテルなどにおいて導入適性がある。
クリーンエネルギー
自動車
・ 本県は人口当たりの自動車の保有台数が特に多く、自動車に依存した構造となっているため、既存のガソリン車等からクリーンエネルギー自動車への転換を図ることにより、大きな導入効果が得られると考えられる。
・ 特に、都市部においては、自動車排ガスによる大気汚染や騒音の問題も顕著であることから、クリーンエネルギー自動車の導入により都市環境の改善も期待できる。
 
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