5章 ケーススタディ及び事例紹介

第2 事例紹介
 1.廃棄物エネルギー利用  (1) ガス化溶融方式
  廃棄物から合成ガスと再資源化可能な固形物を取り出すガス化溶融炉を紹介します。
施設名称 川崎製鉄 川鉄サーモセレクト方式・千葉プラント
対象とする新エネルギー等 廃棄物エネルギー(一般廃棄物)
導入施設の種類 川鉄サーモセレクト方式 廃棄物ガス化溶融
施設規模 処理能力:150t/日×2炉
運用期間 1999年に一般廃棄物による実証試験を実施。
(2000年4月から産業廃棄物を受託処理)
環境負荷削減効果 同方式における家庭ごみ1t当たりの代表値
[抽出エネルギー]
・ 合成ガス(COやH2により組成、発電等に利用可能)
       :700〜1,000Nm3   
[抽出資源]
 ・硫黄    :0.5kg
 ・再利用水  :600〜900kg
・混合塩   :10kg
・金属水酸化物:4kg
・メタル   :1〜6kg
・スラグ   :60kg
[ダイオキシン]
 厚生労働省の新基準の1/10以下、0.01 ng-TEQ/Nm3を保証
特徴 ・発生するガスは合成ガスとして、燃料電池に使用可能であり、廃棄物はすべて再資源化される。
・ダイオキシン類の分解性能では世界最高レベルにあり、(社)全国都市清掃会議から、ガス化改質方式としては日本で初めて技術検証・確認書の交付を受けている。

  一般家庭から排出されるごみを処理する際には、燃焼により発生した熱を、そのまま熱として取り出したり、あるいは排熱によってタービンを回すことによって発電し、電気として取り出したりすることが従来から行われています。最近では、廃棄物を直接燃焼せずに処理する「ガス化溶融」という技術が開発されています。ガス化溶融は廃棄物を、燃料電池やガスエンジンなどに使用可能な合成ガスと再利用が可能な固形物に変えるものです。ここでは、ガス化溶融技術として「川鉄サーモセレクト方式」のプラントについて紹介します。

1.システムの導入事例(川鉄サーモセレクト方式・千葉プラント)
(1)導入の背景
 サーモセレクト方式は、廃棄物処理に伴う環境への影響を極限まで削減し、リサイクルが困難な廃棄物も再資源化することを目指して、スイスのサーモセレクト社が開発した技術です。「川鉄サーモセレクト方式・千葉プラント」は、川崎製鉄がサーモセレクト社の技術を導入し、千葉製鉄所内に建設した廃棄物ガス化溶融炉です。1999年9月から、一般廃棄物処理の実証実験が行われ、2000年4月からは産業廃棄物処理施設として活用されています。

(2)導入システムの概要
 廃棄物ガス化溶融炉の基本原理は、ごみを無酸素に近い状態で蒸し焼き(熱分解)し、ガスと固形分(炭の状態)に分離した後、このガスと固形分を自らの持つエネルギーを利用して高温燃焼させ、残った灰分を溶融するものです
 サーモセレクト方式はごみを乾燥して熱分解し、酸素を入れて2000度の高温で溶融。熱分解の時に出るガスを1200度から一気に70度まで急冷し、合成ガスとして回収します。サーモセレクト方式の特徴は、ダイオキシン類が生成される条件を避け、その発生を抑制することにあります。
 プロセスは以下のステップにより構成されます。
  (1)プレス・脱ガスチャンネル (@ごみの圧縮、A脱ガス炭化)
  (2)高温反応炉・均質化炉 (Bガス化溶融、Cスラグ均質化、Dガス改質)
  (3)ガス精製 (Eガス急冷(急冷・酸洗浄・アルカリ洗浄) Fガス精製(除塵・脱硫・除湿))
  (4)水処理 (G水処理)

(3)運転状況
 実証実験での実績を紹介します。実証実験は1999年9月から2000年3月まで、千葉市の一般廃棄物14,768tがガス化溶融処理されました。
A合成ガスの性状
 合成ガスの性状は以下のとおりであり、ダイオキシン類の濃度は0.00009 ng-TEQ/Nm3(O2:12%換算値)を達成していました。この合成ガスは、コージェネレーションガスエンジンの燃料として、あるいは燃料電池の燃料として使用することができます。

■合成ガスの性状例(千葉プラント)

項目 単位 ガス精製後
H2 30.7
CO 32.5
CO2 33.8
N2 2.3
ダイオキシン類 ng-TEQ/Nm3 0.00039
ダイオキシン類(O2:12%) ng-TEQ/Nm3 0.00009

B回収物性状
 溶融スラグは厚生労働省の定める「一般廃棄物の溶融固化物の再生利用に関する指針」の溶出基準を満足しています。メタルの主成分は鉄であり、高濃度の銅を溶融しています。
  千葉プラントでの回収物のダイオキシン類の総排出量は、既存の焼却技術で達成可能とされる5μg-TEQ/t-ごみ よりもはるかに低い値の約0.00069μg-TEQ /t-ごみ となっています。

■ダイオキシン類の分配と総量

回収物 含有量 回収量
(固形物は乾物量で表示)
ダイオキシン
分配量
μg-TEQ/t-ごみ
精製ガス 0.00039 ng-TEQ/m3N 722 m3N/t-ごみ 0.00028
スラグ 0.0007 ng-TEQ/kg-DS 62.5 kg/t-ごみ 0.00004
硫黄 0.35 ng-TEQ/kg-DS 0.52 kg/t-ごみ 0.00018
金属水酸化物 0.29 ng-TEQ/kg-DS 0.63 kg/t-ごみ 0.00018
処理水 0.00001 ng-TEQ/L 680 L/t-ごみ 0.00001
ダイオキシン排出量合計 0.00069

2.まとめ
 廃棄物を、燃料電池やガスエンジンなどに使用可能な合成ガスと、再利用可能な資源としての固形物にする本方式の技術は、最終処分場に依存しない循環型社会の構築に向けて、重要な役割を果たすと期待されます。
 なお、川崎製鉄では、サーモセレクト方式は、一般的な家庭ごみ1tを処理した場合、水素や一酸化炭素からなる合成ガス700〜1,000Nm3の他、メタル、溶融スラグ、混合塩などを回収でき、建設に当たっては、従来の焼却炉と同程度の費用で建設できるとしています。

■参考
 ○川崎製鉄資料

 
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