5章 ケーススタディ及び事例紹介

第2 事例紹介
 6.燃料電池
  リン酸型燃料電池を導入している事例を紹介します。
施設名称 東京ガス環境エネルギー館
導入新エネルギーの種類 燃料電池
導入施設の種類 リン酸型燃料電池(定格出力200kW)
(夏期の排熱利用として、排熱投入型ガス吸収式冷温水器の冷水発生に使用)
総合エネルギー効率 夏期、春・秋期:55〜60%
(電力約40%、高温水約10%、低温水約5%)
冬期     :65〜70%
(電力約40%、高温水約20%、低温水約10%)
環境負荷削減効果 二酸化炭素排出削減効果:約869 kg-CO2/日
窒素酸化物排出削減効果:約1.14kg/日
(燃料電池で生成される同量の電気、熱をそれぞれ商用電力とガスボイラーでまかなうとして仮定)
イニシャルコスト
(参考)
本体価格:40〜80万円/kW
(1999年度における代表値は75万円/kW)
投資回収の目安
(参考)
 
1999年度における代表値は
発電コスト: 28円/kWh…@
排熱利用分: 6.9円/kWh…A
排熱利用分を除いた差引純発電コスト(=@−A)
     :21.1円/kWh
差引純発電コストは商用電力単価(16.2円)の約1.3倍


 燃料電池は、天然ガス、メタノールなどの燃料を改質して得られた水素と大気中の酸素とを電気化学的に反応させることによって直接発電するものです。高い発電効率をもち、排熱を利用した総合エネルギー効率では80%を得ることもでき、優れた環境特性を有しています。また、出力規模も自由に選択できることから、大・中型火力発電所の代替からオンサイトや可搬型に至るまで幅広い用途に対応が可能です。

1.システムの 導入事例(東京ガス環境エネルギー館)
(1) 導入の背景
 地球環境を総合的・体系的にとらえ、さらにエネルギー分野における環境保全について、体験学習を通して理解を深めるという「環境学習の場」として整備された東京ガスの環境エネルギー館では、建物・設備においても環境を考えた最新の設備を導入しています。
 主なものとして、燃料電池と排熱投入型ガス吸収式冷温水器があり、管内の電力供給と空調に利用することによりエネルギーを有効に活用しています。

(2)導入システムの概要
 
採用している燃料電池は、定格出力200kWのリン酸型燃料電池で、燃料に都市ガスを使用しています。燃料電池で発生した電力は商用電力に系統連系することによって、負荷の状況に影響を受けずに運転することができます。また、燃料電池からの排熱は、90℃の高温水と60℃の低温水として取り出すことが可能です。高温水は排熱投入型ガス吸収式冷温水器によって冷暖房に利用され、低温水は主に貯温槽系統の給湯に利用されています。

(3)運転状況
@累積運転時間・発電電力量

 燃料電池は1998年9月から運転を開始し、平成11年度末までに累積運転時間約12,800時間、累積発電電力量約2,520MWhの運転を行っています。
館内の電力負荷は、燃料電池からの発電電力でほとんどまかなっています。

Aエネルギー利用効率
(a)発電効率
 発電効率は、終始約40%で、燃料電池の特徴である高い発電効率を維持していることがわかります。
(b)熱利用効率
 熱利用効率(投入するエネルギーに対して、熱として利用できるエネルギーの割合)は、  熱需要の少ない夏期においては、ガス吸収式冷温水器の冷水発生に利用していることから、高温水の熱利用率は約10%となっており、排熱利用の有効な方法であることがわかります。低温水については、温水需要が少ないため、5%程度にとどまっています。
 冬期においては、高温水で約20%(温水式床暖房システムにも利用)、給湯に利用する低温水についても夏期、春・秋期に比べて需要が増すため10%という値となっています。
(c)総合エネルギー効率
 総合エネルギー効率は、夏期及び春・秋期では55〜60%、冬期においては65〜70%を記録しています。

資料:「クリーンエネルギー」2000年9月号

B環境負荷削減効果
 システム導入による環境負荷削減効果を、燃料電池を導入しなかった場合(同量の電力量及び熱量をそれぞれ商用電力とガスボイラーでまかなうと仮定)と比較すると、燃料電池の導入によって、1日当たり、CO2約869kg-CO2、NOx約1.14kgもの削減効果があると評価できます。

■参考
○「クリーンエネルギー」2000年9月号(日刊工業新聞)
 

燃料電池の利用について

(1)燃料電池の種類
 燃料電池はこれまで、電解質の種類によって、アルカリ型、リン酸型、固体高分子型、溶融炭酸塩型、固体電解質型の5種類が開発されています。その中で最も開発が進んでいるものは、リン酸型燃料電池で、主に50kWから200kW程度の発電容量でパッケージ化されたプラントが日本、アメリカ、ヨーロッパを中心に導入されています。

(2)使用する燃料
 燃料は、天然ガス、メタノールなどを改質して得られる水素を利用します。都市ガス(天然ガス)のほか、LPG、下水汚泥の処理過程で得られる消化ガス、食品排水や生ゴミの処理過程で得られるバイオガス、メタノール、水素などが燃料として使用可能です。
 現在実際使われているものは、下水汚泥の消化ガス(例:横浜市下水道局)、工場から出る廃メタノール(例:セイコーエプソン豊科工場)、食品工場の排水から得られるバイオガス(例:キリンビール栃木工場)などがあります。
 今後は家畜のふん尿から得られる消化ガスや生ゴミから得られるバイオガス、化学工場から得られる廃水素の利用も期待できます。

(3)特長
●高い発電効率
 送電端で40%という、大型火力発電所と同程度の発電効率が得られます。さらに、発電の際に発生する熱の利用も合わせると、総合エネルギー効率は80%以上となります。
●良好な環境性
 大気汚染物質はほとんど排出しません。また、変換効率が高いことから、相対的に温室効果ガスの排出量も少ないと言えます。
●高品質な電力の供給が可能
 インバータを通し出力することで、一定周波数、一定電圧という高品質な電力が得られます。
●多様な燃料に対応
 「(2)使用する燃料」で述べたように多様な燃料に対応することができます。
●保守や取り扱いが容易
 静止型の電気化学的な発電装置であることから、長期間にわたる連続運転が可能です。また、運転管理も容易で、実用化されているリン酸型燃料電池では「全自動・無人運転」が可能となっています。

(4)経済性

イニシャルコスト
 
本体価格:40〜80万円/kW
(1999年度における代表値は75万円/kW)
発電コスト




 
1999年度における代表値は
発電コスト: 28円/kWh…@
排熱利用分: 6.9円/kWh…A
排熱利用分を除いた差引純発電コスト(=@−A)
     :21.1円/kWh
差引純発電コストは商用電力単価(16.2円)の約1.3倍

出所:新エネルギー技術開発関係データ集作成調査(燃料電池)(NEDO・燃料電池開発情報センター)

●支援制度等
 燃料電池の導入に当たっては、以下の支援制度が活用可能です。

支援制度 対象者 内容 実施主体
新エネルギー事業者支援事業 事業者 債務保証
補助(補助率1/3)
NEDO
地域新エネルギー等導入促進事業 地方公共団体 補助率 1/2 NEDO
日本開発銀行融資 限定せず 融資 日本開発銀行
エネルギー需給構造改革投資促進税制 (国税) 青色申告を提出する個人又は法人 優遇税制  



 

燃料電池導入の課題と方向性

(1)導入の課題
 高いエネルギー効率、良好な環境性など多くの利点がありながら、経済性が導入の障害となっています。より一層の低コスト化、高効率化が望まれます。

(2)導入の方向性
●効率的な熱電供給システムとしての活用
・高い発電効率、コージェネレーションとしての利用ができること、大気汚染物質をほとんど排出しないこと、また、変換効率が高いことから、相対的に温室効果ガスの排出量も少ないこと、高品質な電力の供給が可能なことから、効率的な熱電供給システムとしての普及が期待できます。

●廃棄物を燃料とした循環型社会への適用
・下水汚泥の処理過程で得られる消化ガス、工場から出る廃メタノール、食品工場の排水から得られるバイオガスなど、現在廃棄しているものをエネルギーとして利用可能なことから、循環型社会へ対応するエネルギー利用方法として期待されます。

●ライフスポットへの適用
・燃料電池は、燃料の供給さえあれば、設置した場所で安定した発電が可能であることから、災害時の電力供給源としての役割を担うことができます。
・災害に対応できるよう、通常時には天然ガスを燃料として稼働し、天然ガスの遮断等の災害が発生した場合には、予備燃料であるLPGに自動的に切り替え、運転できるように設定されているものもあります。

●小規模分散型エネルギーとして
・今後は次のコラムにもあるように、一層の小型化などにより、小規模建築物や一般家庭にも導入されることが望まれます。


 
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