栃木県水環境保全計画

第5章 流域圏別の施策の展開方向

 水循環系の基本となる流域を単位として、地域の特性に配慮した施策展開を図ることが重要であることから、県内を、那珂川、鬼怒川・小貝川、渡良瀬川の3つの「流域圏」に分け、それぞれの特性を生かした施策の方向性を示す。

 

那珂川流域圏

(1)流域の概要

  • 那珂川は本県と茨城県の一部にまたがる河川で、那須岳を源として、南東方向に流下し、雄大な那須扇状地を形成して支流の余笹川、箒川、荒川等を合流して茨城県へと流れている

  • 本流域の北西部の森林は、那珂川水系の重要な水源かん養地帯となっている。また、日光国立公園をはじめ、八溝、那珂川の2つの県立自然公園があり、自然が多く残された地域である。

  • 那珂川水系に属する河川の15水域における環境基準類型指定状況はAA又はA類型で、他水系に比較し水質的に良好な河川が多い。

(2)流域の水環境

  • 平成14年度の本水系のBODの環境基準達成率は91.8%と高いが、大腸菌群数の環境基準達成率は9.1%と他の流域圏と比べて低い。

  • 本流域圏の下水道の普及率は、他の流域圏と比べて低い。

  • 那珂川は、ヤマメ、アブラハヤ、アユ、ウグイが多く生息し、サケが遡上する日本屈指の清流であり、釣りやカヌーイスト等の多くの観光客が訪れている。

  • 那須野ヶ原一帯には、アカマツなどの平地林が広がり、水田や畑地も多く、那須疏水や豊富な湧水から流れる小川が一帯を縦横に走り、水生生物の良好な生育・生息環境となっている。

  • 本流域圏内では、地域住民を中心に、棚田の保全活動をはじめ、希少水生生物であるミヤコタナゴやイトヨの保全活動等が行われている。

(3)施策の方向性
 〜 清流那珂川の保全と活用 〜

  • 那珂川水系の良好な水環境を保全していくため、生活排水対策の一層の推進を図る。また、畜産が多い地域であることから、家畜排せつ物を適切に管理するとともに堆きゅう肥としてのリサイクルを促進する。

  • 流域の森林については、水源かん養機能等の維持増進を図るため、適時適切な森林整備を促進する。また、平地林、棚田、湧水地及びそこに生育・生息するミヤコタナゴ等の水生生物の保全を図る。

  • 清流那珂川と豊かな自然環境に恵まれた里山という地域資源を活用し、魅力ある生活体験を通じた都市住民と農山村住民との交流の促進や、ゆとりあるスローライフ*1の実現に向け、水環境を生かしたまちづくりを進める。

【取組の一例(県関与事業)】

  • 那珂川水系水質保全協議会*2等による水質保全対策の推進

  • なかがわ水遊園(湯津上村)など清流を活用した水辺空間の整備、流域住民との交流・連携の促進

  • 宮川(矢板市)水辺の楽校プロジェクトによる子どもたちへの河川の遊び場、自然体験の場、自然学習の場の提供・活用の推進

  • 那須疏水や開拓の歴史を生かした田園空間の活用
    など

*1 高度経済成長期時代の「早く、安く、便利に、効率よく」の追求に対し、自然環境やものの価値をもう一度見直し、ゆとりある人間的なライフスタイルを志向する考え。
*2 那珂川水系の水質保全を推進するため、流域内の16市町村により構成されている。

鬼怒川・小貝川流域圏

(1)流域の概要

  • 鬼怒川は、栗山村の鬼怒沼に源を発し、県のほぼ中央部を南流して、茨城県水海道市の南で利根川に合流する。

  • 小貝川は、市貝町北部の喜連川丘陵に源を発し、平野部を蛇行しながら流れて、その後、五行川と合流し、茨城県取手市地先で利根川に合流する。

  • 鬼怒川の中流域から下流域と小貝川流域にかけては、肥沃な農地が広がり、農村には、コナラなどの平地林が残されている。

  • 鬼怒川・小貝川水系に属する河川の20水域における環境基準類型指定状況は、上流域のAA類型から下流域のC類型までの4類型である。

(2)流域の水環境

  • 平成14年度の本水系のBODの環境基準達成率は90.4%であるが、市街地を流れる河川や水路等では、さらに水質の改善が必要な地域もみられる。
  • 鬼怒川には豊かな自然が残されているが、近年、河床の低下により、中小洪水で冠水しない場所が増えて植生が多くなり、鬼怒川特有の河原が減少している。
  • 中禅寺湖や湯ノ湖における富栄養化、戦場ヶ原の乾燥化の進行等の課題がある。
  • 鬼怒川をはじめ、中禅寺湖、戦場ヶ原、豊富な湧水、里山等の多様な水辺、水環境が存在し、この豊かな自然を保全し、また、環境学習の生きた教材として活用している県民や民間団体等が数多く活動している。

(3)施策の方向性
 〜 水環境保全の先導的モデルをつくる 〜

  • 市街地を流れる河川や水路等の水質を改善するため、生活排水対策をより一層推進する
  • 流域の森林については、水源かん養機能等の維持増進を図るため、適時適切な森林整備を促進する。
  • 県民や民間団体等による多彩な水環境保全活動をコーディネートし、他の流域圏のモデルとなるよう、流域内の住民等が主体的に、水環境の保全や再生等に取り組む仕組みを構築する。
  • 本流域圏にある良好な自然環境の保全を図りながら、自然環境や生物とふれあえる環境づくりを推進する。

【取組の一例(県関与事業)】

  • 奥日光清流清湖保全協議会等の住民参加組織による県民と行政のパートナーシップの確立、奥日光の自然環境の保全や修復等の推進
  • 環境学習関連施設やとちぎボランティアNPOセンター「ぽ・ぽ・ら」等の活用による保全活動、環境学習の促進
  • 鬼怒川・小貝川サミットにおける流域自治体との連携によるクリーン大作戦等
    など

渡良瀬川流域圏

(1)流域の概要

  • 渡良瀬川は、足尾山地と日光火山の間に源を発して南に流下し、いったん群馬県側に流れた後、県の南西部を流れて埼玉県の栗橋付近で利根川に合流する。

  • 渡良瀬川上流域には、かつて足尾銅山があり、亜硫酸ガスなどによる大気汚染で周辺の森林が裸地化するとともに、銅山廃水によって下流域に公害をもたらした。現在では、治山事業やボランティア等により、荒廃した足尾の山の緑化・復旧に向けた活動が行われている。

  • 渡良瀬川水系に属する河川の29水域における環境基準類型指定状況は、上流域のAA類型から下流域のE類型までの6類型である。

(2)流域の水環境

  • 平成14年度の本水系のBODの環境基準達成率は85.3%で、他の水系と比べると低い。これは、中流から下流にかけては、足利市、佐野市、栃木市、小山市等の都市が連なり、市街地を流下した後の地点で水質汚濁が見られるためである。
  • 本流域圏は地下水が豊富であることから、他の流域圏と比べて、農業用水、工業用水、水道用水の水源として、地下水の依存率が高い。
  • 渡良瀬遊水地は広さ3,300haという日本最大の遊水地であり、本州以南随一のヨシ原を有する低層湿原である。環境省が絶滅危惧種に指定した多くの生物が生育し、チュウヒの他、ワシ・タカ類の越冬地としても国内屈指の地となっている。この地では、50年ほど前からヨシ焼きが行われており、文化的景観重要地域*1に指定されているが、この行事は結果として、ヨシ原環境の維持と希少な植物の保全に重要な役割を果たしている。
  • 渡良瀬川をはじめ、矢場川や秋山川等では、毎年多くの流域住民が参加して行われる清掃・美化活動や、渡良瀬川のサケの稚魚の放流活動等、県域を越えた流域住民との交流活動が盛んである。

(3)施策の方向性
 〜 地域活力を生かした水文化の創造 〜

  • 生活排水対策をより一層推進し、渡良瀬川水系の水質改善を図る。
  • 流域の森林については、水源かん養機能等の維持増進を図るため、適時適切な森林整備を促進する。
  • 平地部では、深層地下水の過剰揚水に伴い地盤沈下が続いていることから、地下水の適正利用を推進する。
  • 県域を越えた人々の水環境の保全活動は、本流域内に連なる歴史的資源や文化、本県の経済を支えてきた産業の集積、東京圏に近接する地理的特性などを生かし、新たな地域活力を芽生えさせている。このため、県域を越えた人々の水環境の保全活動を通じ、多彩な交流を一層促進することなどにより、新たな水文化を創造していく。

【取組の一例(県関与事業)】

  • 渡良瀬川中流部支川地域協議会*2における矢場川、袋川、蓮台寺川における水環境改善のための「第二期水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンスII)」の推進
  • 荒廃した足尾の山の植林活動、治山・治水・砂防事業の推進
    など

*1 「農林水産業に関連する文化的景観の保護に関する調査研究(報告)」(平成15年 文化庁)において、農山漁村にみられる棚田や里山などの風景を文化的景観として保護することを目的に、全国180か所が重要地域に選定されている。
*2 学識経験者や以前から積極的に河川愛護活動を行ってきた流域の熱心な地域住民団体、栃木県、群馬県、足利市、太田市、館林市、邑楽町、国土交通省で構成されている。

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