
事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的として、11年7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」が公布された。
同法で定められたPRTR制度では、政令で定める354種類の化学物質(第一種指定化学物質)を取り扱い、かつ、政令で定める届出要件(業種、従業員数、取扱量)を満たす事業者が、1年間にどのような物質をどれだけ環境中へ排出したか、あるいは廃棄物としてどれだけ移動したかを行政機関に届け出ることとなっている。
国はそれを集計し、家庭や農地、自動車などから排出される化学物質の量を推計し、合わせて公表することとなっている。
事業者は、自らが排出している化学物質の量を把握することによって、化学物質排出量の削減への自主的な取組が促進されることが期待される。
法に基づき、有害性の恐れのある354種類の化学物質について、事業者から16年4月1日から16年7月1日の期間に第3回目の届出がなされた。国においては、17年3月にそのデータを都道府県ごとに集計し公表した。県においては、その結果を地域ニーズに応じて加工し、公表することができることとなっている。
この制度により、化学物質の適正な管理を進めるためには、県民と企業及び行政の担当者が、それぞれの立場の違いを十分に認識しながら、化学物質のリスクについての情報を共有し、互いに理解と信頼関係を築き、効果的にリスク低減を図っていくための「リスクコミュニケーション」を進めることが重要になってきている。
本県では、これまでリスクコミュニケーションのあり方検討会を設置し議論を進めるとともに、リスクコミュニケーションセミナー等を開催し、「リスクコミュニケーション」を推進している。
(1) 届出件数
栃木県内における対象事業所からの15年度の第一種指定化学物質の排出量及び移動量の届出は、791件である。全国での届出件数は41,079件であり、栃木県は全国の約2%を占めている。
届出事業所数 |
栃 木 県 |
全 国 |
13年度 |
727 |
34,820 |
14年度 |
696 |
34,497 |
15年度 |
791 |
41,079 |
(2) 環境への排出量
栃木県内の事業所からの届出排出量と推計量をあわせた合計排出量は、15,599t(14年度は20,823t)である。届出排出量は全体の60%(同44%)を占め、それ以外から排出される推計排出量は40%(同56%)を占める。届出排出量の内訳は、大気への排出99%(同99%)、公共用水域への排出1%(同1%)であった。(図2−6−2)
発生源別の内訳をみると、事業所(製造、販売、サービス業、農業等)からの排出割合が77%(同79%)、家庭から8%(同6%)、自動車等から15%(同15%)であった。
しかしながら、要件を満たした事業者が届出を行うため、届け出られた排出量等が全ての事業者からの排出量等を網羅しているわけでないこと、推計量については想定される排出源を対象に国が推計を行っており、全ての排出源を網羅したものとなっていないこと、また、その精度に一定の限界があること、さらには現在、推計手法の改善を進めているところであり、推計手法が変更されていること等から、単純に排出量を比較することはできないことに留意する必要がある。
図2−6−2 発生源別・排出先別割合(届出・推計)(15年度)

ア 届出排出量
(ア) 大気への排出量
栃木県内の事業所から届出のあった大気への排出量9,237t(14年度は8,968t)の上位5物質を図2−6−3に示す。排出量の多い物質の主な用途は次の通りである。
a トルエン :塗料やインキの溶剤、ガソリン成分、合成原料
b キシレン :塗料の溶剤、ガソリン・灯油成分、合成原料
c ジクロロメタン(別名 塩化メチレン):金属脱脂の洗浄剤
図2−6−3 大気への排出量(届出)

(イ) 公共用水域への排出量
栃木県内の事業所から届出のあった公共用水域への排出量91t(14年度は109t)の上位5物質を図2−6−4に示す。排出量の多い物質の主な用途は、次のとおりである。
a ふっ化水素及びその水溶性塩 :金属・ガラスの表面処理剤
b ほう素及びその化合物 :ガラス添加剤、消毒剤
c 亜鉛の水溶性化合物 :乾電池、金属表面処理剤
図2−6−4 公共用水域への排出量(届出)

(ウ) その他
土壌への排出は合計28kg(14年度は52kg)、届出事業所における埋立はゼロであった。
イ 推計量
(ア) 届出の必要のなかった事業所からの推計排出量
届出要件(業種、従業員数、取扱量)を満たしていないために、届出をする必要のなかった事業所からの推計排出量2,619t(14年度は7,333t)の上位5物質を図2−6−5に示す。
物質毎に大きな排出量の変動があるが、現時点では、まだ多くの発生源区分で推計方法を改善している段階である。排出のあった物質の主な用途は、次のとおりである。
a エチルベンゼン :塗料の溶剤、ガソリン成分
b クロロピクリン :農薬(殺虫剤)
c HCFC−22 :フロンガス
図2−6−5 届出の必要のなかった事業所からの推計排出量(推計)
(イ) 家庭からの排出量
栃木県内の家庭からの推計排出量1,229t(14年度は1,187t)の多い上位5物質を図2−6−6に示す。排出のあった物質の主な用途は、次のとおりである。
a 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩 :界面活性剤(洗剤成分)
b ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル :界面活性剤(洗剤成分)
c p‐ジクロロベンゼン :衣類用防虫剤

図2−6−6 家庭からの排出量(推計)

(ウ) 自動車等からの排出量
栃木県内の自動車等(自動車・二輪車・特殊自動車等)からの排ガスに含まれる推計排出量2,423t(14年度は3,227t)の多い上位5物質を図2−6−7に示す。
14年度からは、発生源区分として新たに、自動車等のコールドスタート時の増分等を追加したために、トルエン、キシレン、ベンゼンが増加しているものと考えられる。
図2−6−7 自動車等からの排出量(推計)

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